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イラク:米軍の空爆と現地情勢

2014年08月12日

オバマ米大統領が8月7日夜、緊急声明を発表し、イラク北部で勢力を拡大しているイスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」を封じ込めるため、米軍による限定空爆を承認したことを明らかにした。翌日、米軍はクルド人自治区の中心都市エルビルの南西約50kmにあるマフムールで戦闘中の武装組織の火砲を爆撃して破壊。米軍のイラクでの本格的な軍事行動は、2011年末にイラクを撤退後初めてである。

イラクでは、今年6月6日以降,イスラム過激派武装組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL):ISの前身」が攻勢をかけ,6月10日にイラク北部の同国第2の都市モスルを制圧。その後も電撃的な進撃により、要衝ティクリートや大製油所のあるハイジを占拠するなど北部から中部・西部で勢力を拡大し,各地でISとイラク軍・治安当局との間で一進一退の攻防が続いている。
ISの勢力は数千人と推定されるが、強さの秘密は、政府軍から多数の戦車や重火器等を奪取、シリアでの豊富な戦闘経験、マリキ政権に不満のスンニ派部族や旧フセイン政権の元軍人等の加勢、政府軍の弱体、主にスンニ派地域を戦闘場所として土地の利を生かしている、SNSを利用した巧みな宣伝、潤沢な資金等が上げられる。

今回の米国の空爆は、特にクルド自治政府からの要請によるものであるが、背景として、クルド自治政府の首都エルビル近郊にまでISが迫っている(エルビルには、米国総領事館、米国軍事顧問団の拠点、欧米企業施設等がある)、またISが少数派民族やキリスト教徒を迫害している、加えてモスル近郊にある国内最大のダムを占拠したためとされる。
イラク北部のシンジャールでは、ISの攻勢で約4万人のクルド人宗教少数派のヤジド派(ゾロアスター教、イスラム教、キリスト教の影響を受けた独自の信仰)の住民が付近の山に逃げ込んで救援を求めているとのメディア報道もある。
ペシュメルガ(クルド自治政府の治安部隊)とISとの戦闘では,ペシュメルガがISに比べ装備が劣っており劣勢にあることから、米国は(英・仏等と)ペシュメルガへの武器・弾薬の援助を行い、またヤジド派住民への食糧、水などの支援物資の供給を開始した。

イラク主要都市の治安状況については、エルビルは従来比較的平穏を維持してきたが、ISがクルド地域近郊に侵攻してきたことから、一部の欧米企業では従業員を退避させる動きがある。また、英外務省は8月8日、英国人に対してエルビルからの退去を促した。
首都バグダッドでは、ISが6月12日、首都への進撃を図ると宣言したことや爆弾テロが市内で継続的に発生して厳しい状況にあることから、多くの外国企業・団体は社員を退避させた。その後、政府軍が首都周辺の守りを固めたことから、ISのバクダッドへの侵攻の可能性は低くなっている。バスラを含む南部4県では、最近大規模なテロ事件は起きていないが、小さなテロは散発しており、テロのリスクは排除できない。

日本外務省は8月12日付で危険情報(下記HPアドレスを参照)を発出し、クルド地域のエルビル県(エルビル市並びにニナワ県,サラーハッディーン県及びキルクーク県との県境を除く)について、「渡航の是非を検討」から「渡航延期勧告」に引き上げた。また、その他の各地域の危険情報は継続を維持して、引き続き厳しく注意を促している。さらに真にやむを得ない理由により渡航する場合は、必ず現地日本大使館に事前連絡すると共に、最新情報の入手、セキュリティ専門家の助言を得る、十分な安全措置を講ずる等を求めている。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=45#ad-image-1

イラク・レバントのイスラム国(ISIL)は、6月29日、アブー・バクル・バグダーディーをカリフ(イスラム共同体の指導者)とするカリフ制を、シリア・イラク両国のISIL制圧地域に樹立すると宣言。また組織をISILから、イスラム国 (IS)に改名することを発表したが、ISの狂信的かつ過激な行動に対してマリキ政権に不満を持つスンニ派部族からも反発や離反の声が上がっている。
米国はISの動きを招いた背景には、マリキ政権がシーア派を過度に優遇しスンニ派を排除したことにあるとして、マリキ首相の退陣と挙国一致政権の樹立を強く求めている。米軍の空爆は、今までのところISに一定の打撃を与え効果を上げているが、もし今後ISの反撃が激しくなった場合、米軍の作戦が(限定空爆から)拡大し継続するかは、挙国一致政権の行方ともからむ可能性があり、当面不透明な状況が続く。(長谷川 善郎)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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