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海外安全・危機管理 ― 2014年の回顧と展望

2014年12月26日

                                   海外安全・危機管理の会
                                      代表 長谷川善郎

本欄の「最新ニュース」では、2014年の1年間に、日本企業・団体の海外安全・危機管理に関する主な記事として、32件を掲載した。
記事の内訳は、テロ(11件)、政情不安(8件)、治安悪化(7件)、感染症(2件)、大気汚染(2件)、暴力犯罪(1件)、労務問題(1件)である。テロ、政情不安、治安悪化の件数が多いのは、これらが企業・団体にとり海外安全対策、危機管理対策の最注力分野であることを表す。

テロの関連では、イスラム過激派の武装勢力(「イスラム国」と称する)が、今年6月、イラク第二の都市モスル等北部の都市を制圧し、シリア、イラクでの支配地域を広げたこと、また、(80カ国以上から集まった)1万人以上の外国人戦闘員がイスラム国に加わっていることが、世界を驚愕させた。背景には、一部の国家で統治が弱まって既存の国家を否定する過激派の台頭を招き、これに中近東や欧米諸国から社会に不満を持つ者、過激なイスラム思想を持つ者らが、インターネット等による巧みな呼びかけに引き寄せられ、義勇兵として加わったことが上げられる。大きな脅威となったイスラム国に対し、今年9月、米国を中心とする有志国連合によってイスラム国の殲滅作戦が開始された。現在もイラク、シリアの各地でイスラム国との攻防が続いており、イスラム国は徐々に押されてはいるが、戦闘は長期化の様相にある。
欧米諸国では、イスラム国の支持者や自国に戻った戦闘員が国内でテロを起こす可能性が高まっているとして、警戒を強めている。イラク情勢の悪化で、日本企業・団体はイラクのバクダッドへの渡航を取り止めているところが多い。
イスラム国以外の様々なイスラム過激派のテロ組織も、エジプト、アルジェリア、ナイジェリア、ケニア、パキスタン、アフガニスタン等の地域で根強く活動しており、2015年もこの傾向が続くことが予想される。

政情不安については、ウクライナ危機が上げられる。同国で親ロシアのヤヌコビッチ政権が今年2月、反政府の野党勢力や市民の抗議行動によって崩壊したことから、反発したロシアがクリミアを一方的に自国に編入し、さらにウクライナ東部では親ロシア勢力がウクライナからの独立を宣言して、政府軍と武力衝突を繰り返している。ウクライナを巡ってロシアと西側諸国の間で深刻な対立が始まった。来年は、日本企業・団体への更なる影響も予想される。
他にも政情不安を記事に取り上げた国がいくつかある。エジプトでは、ムスリム同胞団出身のムルシ大統領(当時)を事実上の軍事クーデターで排除したシーシ氏(当時国防相・軍総司令官)が、今年6月、大統領に就任したことで、ムスリム同胞団等による抗議行動が散発的に起きている。軍事クーデターは、タイでも今年5月に発生したが、政情は落ちつきを取り戻している。リビアでは、カダフィ後も内戦を戦った各派の民兵組織が林立して、治安部隊との衝突や部族間紛争を繰り返して混迷が深まっており、日本企業・団体も国外退避の状況にある。

治安悪化については、エクアドル(日本人の特急誘拐の被害)、メキシコ(ゲレロ州での学生失踪事件、ベネズエラ(受刑者多数の不審死)、インド(女性の暴行被害)等の事例を取り上げて、読者に注意を喚起した。

感染症については エボラ出血熱の爆発的流行がある。今年3月、ギニア政府が発表したのが最初で、その後、リベリア、シエラレオネに感染が広がり、ナイジェリア、マリ、さらに欧米諸国にも飛び火して、世界保健機関(WHO)は8月8日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して、国際社会はこの重大な脅威の感染症対策に協調して取り組むことになった。日本企業・団体でもギニア、リベリア、シエラレオネの3国からの一時国外退避や感染地域への渡航取り止め、外務省の感染症危険情報を踏まえた予防行動等を実施している。企業は社員・職員の健康管理を第一にすると共に、万一感染の場合でも他人にうつさない対策を取ることが大切である。WHO統計によれば、エボラ出血熱の流行は、12月24日現在で、感染者19,497名、死者7,688名となっている。ギニア、シエラレオネで流行が続いており、引き続き警戒が必要である。米国のタイム誌は12月10日、毎年恒例の「今年の人」に、西アフリカで 猛威を振るうエボラ出血熱の感染拡大防止に取り組む医師や看護師らの「エボラ・ファイターズ」を選んだと発表。自らを感染の危険に晒しながらも忍耐強く取り組み、患者の命を救ったことを評価した。

日本人が海外で遭遇する被害について、外務省の海外邦人援護統計によれば、2013年に海外で事故・災害に遭った邦人の件数は255件(前年は242件)で、内5割以上が交通機関の事故(143件)、次いでスポーツ事故(69件)となっている。また犯罪被害については、5,353件(前年は5,457件)で、最も多いのが窃盗被害(4,400件)、次いで詐欺被害(397件)、強盗被害(294件)でした。海外では事故や一般犯罪が多発しているので、滞在者、渡航者は十分な注意が必要です。

来年の治安情勢について、テロ組織の活動、地政学的リスク(ウクライナ問題、イスラム国動向等)、原油価格の下落等が、世界各地で治安に大きな影響を与える可能性があるとの見方がある。関連情報の収集・分析に努め、タイムリーな情報発信を目指します。

海外安全・危機管理の会(OSCMA)は、今年11月、NPO法人として設立の認証を受けました。小規模企業から大規模企業まで幅広く対象に、海外で発生する事件、事故、災害、緊急事態、感染症、経営上のトラブル等のリスクの防止・軽減及び海外安全・危機管理の普及を図る事業に取り組みます。グローバルな視点に立ったリスク対策や模擬訓練の実施にも重点を置きます。
皆様のご要望に沿うよう一層の努力をして行きますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

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