OSCMA 海外安全・危機管理の会

NPO法人 海外安全・危機管理の会


会員専用ページへ

グローバル:海外安全・危機管理 ― 2016年の回顧と展望

2016年12月26日

                               NPO法人海外安全・危機管理の会     
                                      代表 長谷川善郎

本欄の「最新ニュース」で、2016年の1年間に、日本企業・団体の海外安全・危機管理に関わる記事として、8件を掲載しました。
記事の内容は、テロ(5件)、政情不安(1件)、感染症(1件)、凶悪犯罪(1件)ですが、これらは、企業・団体にとり、海外安全対策、危機管理対策の最注力分野です。

テロの5件はいずれもイスラム過激派に関係するものですが、それらは、①インドネシア・ジャカルタでの連続テロ(掲載日1月20日)、②ベルギーでの連続テロとこれからの企業安全対策(同3月28日)、③フィリピンでイスラム過激派集団アブサヤフの活動が活発化(同5月6日)、④バングラデシュ・ダッカでの人質事件と今後の企業テロ対策(同7月11日)、⑤東南アジアで高まるテロの脅威(同9月9日)。

上記④のバングラデシュ・ダッカでの人質事件では、ダッカ市内の外国人が多く利用する高級レストランを、5人の武装集団が襲撃し、30人以上を人質に取って立て籠もり、23人(内警官2人)を殺害、多数が負傷した。レストランに居合わせた(日本から出張中の)邦人7人が犠牲になり、1人が負傷するという大変痛ましい事態となった。事件後、「イスラム国(IS)バングラデシュ支部」を名乗る犯行声明がインターネット上に載った。バングラデシュでは2015年秋ごろからテロが多発しており、外務省は危険情報レベル2「不要不急の渡航は止めて下さい」を発出して、注意を呼び掛けていた。

事件後、 外務省「提言」点検チームによる在外邦人の安全対策強化に係る提言の点検報告書(8月2日付)が公表され、過去になされた各種提言の実施状況の点検と共に、国民の安全対策意識の向上と対応能力強化を図るための新たな提言が付け加えられた。それらは、在外公館による「日系企業支援窓口」や「安全対策連絡協議会」等を活用した官民連携強化、また(相対的に安全情報に接する機会が限られる)中堅・中小企業、海外子女教育施設、留学生、短期旅行者などの安全対策強化、国民への適時適切な情報発信、「たびレジ」登録の推進、安全マニュアルの作成等であり、円滑な実施と継続的取り組みが望まれます。

たびレジについては、最近、利用者から、「タイムリーな情報が入手できるようになり、(安全のために)便利になった」との声がよく聞かれるようになりました。当会も、声を大にして、たびレジの推奨をして行きたいと思います。

2016年の世界におけるテロ状況を振り返ると、各地でテロが相次ぎ、就中ソフトターゲット(マーケット、ホテル、空港、レストラン等)を狙った大規模テロが多発していることから、テロの脅威が現実のものになっているとの指摘が高まっている。
犯行を繰り返すISは、シリア・イラクの支配地域で軍事攻撃を受けて劣勢に立たされているが、戦闘に加われないIS同調者に対しては、居場所でのテロを呼びかけており、これに呼応したと思われるテロが、中東のみならず、欧州、アフリカ、アジア、米国にまで広がっている。

欧米諸国では、社会的に疎外感を感じているイスラム教徒の若者らが、ISのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などを通じてイスラム過激思想に洗脳されて、自国で実行するホームグロウン・テロや単独で実行するローンウルフ・テロが増加して、大きな脅威となっている。
また、(シリア、イラクと国境を接する)トルコでは、2016年にテロが続発したが、テロはISによるものとクルド人武装組織によるものが混在し、トルコ軍がシリア領内のクルド人武装勢力に攻撃を加えるためシリア内戦に介入したことも、テロ増大の要因となっている。

ISはSNSを駆使して言葉巧みに支持者の勧誘を行っている。(シリア・イラクでの支配地域を失っても)、ISは、「バーチャル・カリフ国」の路線を敷く構えも見せており、油断できない情勢が続く。
2016年に日本人、日本企業をターゲットとするテロの具体的脅威はなかったが、過去にはISが日本もターゲットとすると表明しているので、最新の治安情報を入手して、「目立たない」、「リスクの高い場所にはできるだけ近づかない」等の注意が必要です。

米国務省が今年6月2日に発表した2015年テロ年次報告書によると、テロは2015年に92カ国で計11,774件発生し(前年比13%減)、その55%がイラク、アフガニスタン、パキスタン、インド、ナイジェリアの5カ国に集中している(シリアは382件で10番目:実態把握が困難なため)。テロ犠牲者は21,404人で前年より約5千人減少した。
ISによるシリアやイラクでの支配地域は、2015年春に最大に達したが、その後は米主導の有志連合による空爆作戦等により、2015年後半以降、大幅に縮小。しかし、ISはシリアやイラクで支配地域を減らす一方で、リビアで勢力を伸ばしており、報告書はリビアでの戦闘員を約5千人と推定している。

政情不安については、トルコで7月15日夜、一部軍人による軍事クーデター未遂事件が
発生。クーデター勢力と治安部隊の交戦で、市民を含む290人以上(内、反乱兵士100人)が死亡、1,500人以上が負傷した。
エルドアン大統領は、クーデターの黒幕は米国在住のギュレン師と断定。非常事態宣言を発令し、教師、弁護士、裁判官、警察官、兵士、政府機関職員ら12万5千人以上を停職、解任したほか約170社のメディアも閉鎖した。欧米各国はトルコ政府への支持を打ち出す一方で、エルドアン大統領の強硬策と独裁化を懸念している。

感染症については、ジカ熱の流行がある。2015年5月頃からブラジルで流行し、中南米から世界各地に感染が広がった。ジカ熱患者は、ブラジルで150万人以上、コロンビアで2.5万人以上(疑い例を含む)と推測されている。妊娠中の女性が感染すると、胎児が小頭症に感染する可能性が生じると指摘されて、世界で不安が高まった。WHO(世界保健機関)は今年2月1日、ジカ熱について「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に該当すると宣言し、妊娠している女性が感染地域を訪問する場合は注意を払うよう呼びかけ、さらに、性交渉でもジカ熱に感染する可能性があるとして、感染地域に住む人や旅行者に対して、特に妊婦とそのパートナーに対し、コンドーム使用などの安全な性交渉を勧告した。WHOは、今年11月18日、上記の緊急事態の終了宣言を行ったが、しかし、ジカ熱はまだ一部地域で流行しており、外務省は引き続き注意を継続するよう呼び掛けている。

凶悪犯罪については、コロンビアのメデジン市で、11月19日、旅行中の日本人大学生が強盗に殺害される痛ましい事件が起きた。市街地を歩いていた際、未成年と見られる2人組に持っていた携帯電話等を奪われたため、逃走する犯人を追いかけたところ、銃で撃たれて亡くなられた。近年、旅行中に若い人たちが事件・事故等に遭遇する事例が少なくない状況に鑑み、当会では、安全に旅行いただくため、「青少年のための海外旅行安全研修」を今年12月より、毎月1回実施することにしました(詳しくは当会ホームページをご参照下さい)。

日本人が海外で遭遇する被害について、外務省の海外邦人援護統計によれば、2015年に海外で犯罪被害に遭った邦人の件数は、4,719件(前年は5,040件)で、最も多いのが窃盗被害3,834件(前年4,140件)、次いで詐欺被害382件(前年429件)、強盗被害257件(前年227件)。テロ被害は3件でシリア、チュニジア、バングラデシュで1件ずつ発生(前年はテロ被害0件)。また、事故・災害に遭った邦人の件数は233件(前年194件)。うち約5割は交通機関事故で116件(前年116件)、次いでレジャー・スポーツ事故38件(前年43件)。海外では、一般犯罪(強盗、詐欺、脅迫、暴力等)、事故、テロが多発しているので、渡航者、滞在者は日本とは環境が違うことを再認識して、注意が必要です。

来年の治安情勢について、①IS等イスラム過激派テロの脅威は継続(シリア、イラクに滞在するIS戦闘員が本国に戻り、テロが拡散)、②内戦の長期化(シリア、イエメン等)、③地政学的リスク(トルコの強権政治、欧州の難民・移民問題、南シナ海領有権問題、ウクライナ問題、朝鮮半島情勢等)、④新しい潮流の影響(米国トランプ次期政権の外交政策、英国のEU離脱、欧州ポピュリズムの台頭と蘭、仏、独で2017年に重要選挙)、⑤東南アジアでのテロの脅威(フィリピン、インドネシア、タイ、マレーシア等)、⑥政情悪化(ベネズエラ、南スーダン、リビア、アフガニスタン)などが、世界の治安に大きな影響を与える可能性があるとの見方があり、注目します。

当会では、小規模企業から大規模企業まで幅広く対象に、海外で発生する事件、事故、災害、緊急事態、感染症、経営上のトラブル等のリスクの防止・軽減、及び海外安全・危機管理の普及を図る事業に取り組んでおり、その一環として、2016年に公開講演会・セミナーを7回開催しました。
2017年も、情報収集・分析力を強化して、海外における安全対策、危機管理対策についての情報提供と訓練機会、適切な助言、並びに(できるだけ)きめ細かい対応に努めます。引き続き、ご支援のほどよろしくお願いいたします。

(備考) 2016年日本人・日本企業に関連した主な事件・事故等
 1月12日 トルコ・イスタンブールで自爆テロ事件。12人(外国人)死亡、14人負傷(トルコでテロ
      が相次ぎ、日系企業では警戒を強める)。
 1月14日 インドネシア・ジャカルタでイスラム国による爆弾テロ事件。4人死亡、24人以上負傷
      (日系企業ではインドネシアへの一時出張自粛)。
 2月1日   中南米でジカ熱の感染が広がり、WHOが緊急事態を宣言(11月18日、緊急事態の終了を
        宣言) 。
 2月10日 トリニダード・トバゴでカーニバル参加の邦人音楽家女性が殺害される。
 3月22日 ベルギー・ブリュッセルでイスラム国による空港、地下鉄連続爆弾テロ事件、
      38人死亡、198人以上(邦人2人を含む)負傷。
 6月12日 米国・オーランドのナイトクラブで中東系の男が銃乱射。49人死亡、53人負   
      傷(邦人の被害はなかった)。
 6月28日 トルコ・イスタンブールのアタチュルク国際空港をイスラム武装集団が襲撃、
      45人殺害、230人以上負傷(空港に居合わせた邦人は無事)。
 6月28日 マレーシア・クアラルンプール郊外のナイトクラブで(IS関与による同国初
      の)爆弾テロ、8人負傷(邦人の被害はなかった)。
 7月1日   バングラデシュ・ダッカの高級レストランをイスラム武装集団が襲撃、21人殺害(うち邦
      人7人)、負傷者多数(うち邦人1人)。
 7月    南スーダンの首都ジュバで大統領派と副大統領派との間で銃撃戦が発生し情勢悪化(大使
      館員含む邦人国外退避)。
 7月14日 フランス・ニースで花火の見物客に北アフリカ系の男が運転の大型トラックが突っ込み、
      86人死亡 、202人負傷(邦人の被害はなかった)。
 7月15日 トルコで一部軍人による軍事クーデター未遂事件(日系企業は自宅待機や渡航自粛指示な
        ど対応に追われる)。
 8月11日 タイの中部と南部の少なくとも9カ所で8月11日~12日にかけて、断続的に爆弾事件、4人
        死亡、少なくとも34人負傷(邦人の被害はなかった)。
 9月2日   フィリピン・ミンダナオ島のダバオ市内のマーケットでイスラム過激派のマウテグループ
      による爆発事件、14人死亡、約70人負傷(邦人の被害はなかった)。
 11月19日  コロンビア・ メデジンで旅行中の日本人大学生が強盗に殺害される。
 11月24日  コロンビア政府とコロンビア革命軍(FARC)が、50年以上の内戦を終結させる和平合意
       文書に署名。
 12月19日  ドイツ・ベルリンのマーケットに北アフリカ系の男が大型トラックを運転して突っ込
       み、12人死亡、49人負傷(邦人の被害はなかった)。
 以上


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

NPO法人

海外安全・危機管理の会

入会のご案内

詳しくはこちら>>

安全情報コラム






Copyright (C) Overseas Security & Crisis Management Association All rights reserved.