OSCMA 海外安全・危機管理の会

NPO法人 海外安全・危機管理の会


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海外安全・危機管理 - 2019年の回顧と展望

2019年12月27日

                               NPO法人海外安全・危機管理の会
                                   専務理事 長谷川善郎

激動する国際情勢にあって、2019年に日本企業・団体に大きな影響を与えた事件・事故・災害等を振り返り、2020年を展望します。

【Ⅰ】2019年の回顧

(1)テロ・誘拐
イスラム国(IS)は拠点であったイラクのモスルとシリアのラッカが2017年の7月と10月にそれぞれ陥落し、その後の掃討作戦によって殆ど支配地域を失ったが、影響力は(縮小するも)まだ残っている。世界で大規模テロの発生は減少したが、小規模テロは多発している。
邦人の被害については、2019年に海外でテロ事件に遭遇して亡くなった方は2人(スリランカ、アフガニスタン各1人)、ケガをされた方は4人(全員スリランカ)でした(当会調べ)。
2019年に世界で発生した主なテロ事件等には以下が上げられる。

< 中東・アフリカ >
・1月15日 ケニア・ナイロビのホテルとオフィス等の複合施設襲撃事件(21人死亡、約30人負傷)
・1月20日 マリ北部の国連PKO部隊拠点への襲撃事件(10人死亡、25人負傷)
・2月13日 イラン南東部でイラン革命防衛隊員が乗るバスへ自爆テロ(27人死亡)
・2月18日 エジプト・カイロのイスラム地区で自爆テロ(警察官数名死傷)
・2月21日 モザンビークのカーボ・デルガード州で外国企業車両襲撃事件(7人死亡)
・4月2日 ウガンダのクイーンエリザベス国立公園で外国人観光客ら2人誘拐事件(4月7日無事解放)
・4月16日 コンゴ民主共和国北東部のベニ近郊で武装勢力が兵舎襲撃(3人死亡)
・5月19日 エジプト・ギザで観光バスを狙った爆発事件(外国人観光客17人負傷) 
・6月3日 レバノン・トリポリの治安機関襲撃事件(治安機関員4人死亡)
・6月27日 チュニジア・チュニス市内で警察官・施設を狙った2件の自爆テロ(警察官1人死亡、市民8
      人負傷)
・7月25日 アフガニスタン・カブールで石油省のバスを狙った自爆テロや現場近くでの爆発(10人死
      亡、41人負傷)
・8月4日 エジプト・カイロで車両爆破事件(20人死亡、47人負傷)
・9月8日 ブルキナファソ北部バルサロゴでイスラム過激派による車両攻撃(29人死亡)
・12月4日 アフガニスタン・ジャララバードでの襲撃事件で6人死亡(中村哲医師とアフガニスタン人
      5人)
・12月28日 ソマリア・モガディシオで爆弾を積んだ車両が爆発(76人死亡、50人以上負傷)

< 欧州、ロシア・CIS >
・1月17日 ノルウェー・オスロのスーパーマーケットでの襲撃事件(1人負傷)
・1月19日 英国・北アイルランドのロンドンデリーで車両爆発事件(事前予告電話で住民避難)
・3月18日 オランダ・ユトレヒトの路面電車内銃撃事件(3人死亡、5人負傷)
・5月24日 フランス・リヨンで路上に置かれたスーツケースが爆発(13人死亡)
・10月3日 フランス・パリの警察本部で警察官らをナイフで襲撃(4人死亡、1人負傷)
・11月29日 英国・ロンドン市内のロンドン橋付近で刃物を持った男が周りの人々を襲撃(2人死亡、3
      人負傷)
・12月19日 ロシア・モスクワのロシア連邦保安局(FSB)本部近くで発砲事件(1人死亡、5人負傷)

< アジア >
・1月27日 フィリピン南部のホロ島にあるカトリック教会で爆発事件(21人死亡、70人以上負傷)
・2月14日 カシミール地方のインド支配地域でインド治安部隊の車両への爆弾テロ(44人死亡)
・4月21日 スリランカで同時爆破テロ事件。257人死亡(邦人1人を含む)、負傷者約500人(邦人4人
      を含む)
・5月11日 パキスタン・バロチスタン州の高級ホテル襲撃事件(5人死亡、6人負傷)
・8月2日 タイ・バンコク市内の4カ所で連続爆発事件(4人負傷)
・10月10日 インドネシア・ジャワ島西部でウィラント調整相がイスラム過激派の男に襲われ負傷
・11月13日 インドネシア・メダンの州警察本部で自爆テロ(6人負傷)
・12月3日 インドネシア・ジャカルタの独立記念広場で爆発(兵士2人負傷)

< 北米、オセアニア、中南米 >
・1月17日 コロンビア・ボゴタの警察学校への自動車爆弾攻撃(21人死亡、68人負傷)
・3月15日 ニュージーランド・クライストチャーチのモスク2カ所で銃乱射事件(50人死亡、50人負
      傷)
・12月6日 米国・フロリダ州の海軍航空基地でサウジアラビア軍人による銃乱射事件(3人死亡、8人
    負傷)
◎なお、誘拐事件については海外で多数発生しているが、日本企業・団体の身代金目的の誘拐事件はな
 かった(当会調べ)。

(2)地政学的リスク
2019年に日本企業・団体の海外安全・危機管理に特に影響を及ぼしたリスクとして、以下が上げられる。
・米中の覇権争い(通商、ハイテク等)は長期化の様相で、先行き不透明
・英国の2020年1月末EU離脱は確実な情勢。離脱後のEUとの自由貿易協定交渉やスコットランド独立
 を求める住民投票の動きは難しい課題
・イエメン内戦とフーシ派によるサウジアラビアの都市、石油施設、空港等へのドローン、ミサイル攻
 撃(イランの一部関与も疑われる)
・米国の対イラン制裁強化とイランの反発(核開発の全面再開をちらかせる)
・ペルシャ湾岸、ホルムズ海峡周辺でのタンカー攻撃で軍事的緊張
・米国は2019年3月25日、イスラエルが占領するシリア・ゴラン高原でのイスラエル主権を正式に承
 認。また11月18日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のイスラエル人入植地は国際法に違反してい
 ないと発表し、一段とイスラエル寄りに方針転換。イスラエル・パレスチナ間の衝突が頻発
・トルコ軍がクルド人武装勢力の掃討のため10月6日、シリア北部領内に侵攻(平和の泉作戦)
・米・朝首脳会談は2019年に2回開催されたが(2月ハノイ、6月板門店)、北朝鮮の核脅威は継続
・カシミール地方でのイスラム過激派テロをきっかけに、インドとパキスタン双方の空軍機がそれぞれ
 相手地域を空爆し、一気に緊張が高まる(2月)
・ウクライナ情勢を巡り、米、EUの対ロシア制裁強化・継続

(3)2019年のその他の世界情勢の特記事項として
 A)香港では逃亡犯引き渡し条例改正案をきっかけに、反対の大規模デモが6月から始まり、民主派は
  ①逃亡犯条例改正案の撤回、②デモを「暴動」と見做す政府見解の取り消し、③デモ逮捕者の釈
  放、④警察の暴行を調査する独立委員会の設立、⑤民主的選挙で指導者を選ぶ普通選挙の確立の5
  項目を要求。林鄭月娥(香港特別区)行政長官は9月4日、逃亡犯条例改正案の撤回を発表したが、
  「too little, too late(少なすぎる、遅すぎる)」と評価され、11月24日に行われた区議会(地方
  議会)議員選挙では、過去最高の投票率(71.2%)となり、民主派が385議席と定数452議席の
  うち85%を獲得し圧勝した。デモは長期化し対立は深刻になっており、先行き不透明感。
 B)2019年は世界各地で抗議デモや暴動が相次いだ。南米で最も安定した国の一つとされてきたチリ
   では、地下鉄料金の引き上げがきっかけとなり、10月18日から国内各地で暴動が相次ぎ、予定さ
   れていたAPEC首脳会議やCOP25の国際行事が取り止めとなった。国民の間で溜まっていた経済格
   差や不平等、汚職への怒りが火を噴いた。大規模な反政府デモはエクアドル、コロンビア、ボリ
   ビア、アルゼンチン、パラグアイ、ホンジュラス、ハイチ等でも発生。中南米以外では、インド
   ネシア、インド、イラク、レバノン、アルジェリア、チュニジア、スーダン、エチオピア、フラ
   ンス、ロシアなどと枚挙に暇がない。
   アルジェリア、スーダンでは長期独裁政権の崩壊につながった。
 C)銃社会の米国では銃犯罪が多発している。例えば、8月3日、テキサス州エルパソのウォルマート
   店に銃を持った21才の男が侵入し、22人死亡、26人以上が負傷。8月4日にはオハイオ州デイトン
   市のバーで24才の男が銃乱射し9人死亡、27人負傷。西部カリフォルニア州サンタクラリータの
   高校では、11月14日、16才の少年によるが銃撃で2人死亡、3人負傷など、事件は日常化してい
   る。
   銃撃事件をまとめる米ネットサイト「Gun Violence Archive」によると、(12月26日現在)、全
   米で2019年の銃乱射事件総数は410件発生。銃にまつわる事件総数は38,739件、銃による死者数
   14,979人、負傷者29,022人。米国が銃問題にしっかり取り組むまで銃乱射事件は続くだろう。

(4)窃盗、強盗等一般犯罪
外務省の2018年海外邦人援護統計によれば、2018年に日本人が海外で犯罪被害に遭った件数は4,768件で、内訳は窃盗3,968件(83%)、詐欺313件(7%)、強盗・強奪207件(4%)、傷害・暴行98件(2%)等となっている。海外で日本人が犯罪被害に遭うケースは少なくないが、近年の日本人の犯罪被害推移をみると、2013年:5,353件、2014年:5,040件、2015年:4,719件、2016年:4,202件、2017年4,531件、2018年4,768件で、「被害件数は減少の後、横ばい傾向」と見てよいだろう。
アルジェリアのイナメナス人質事件(2013年1月発生)やバングラデシュ・ダッカのレストラン襲撃事件(2016年7月発生)を契機に、外務省・在外公館では海外安全対策への取組みが強化された。短期渡航者を対象にした登録システム「たびレジ」の運用が2014年7月1日から始まり、ゴルゴ13(中堅・中小企業向け海外安全対策マニュアル)が2017年6月に発刊されたりして、外務省の海外安全対策がより身近なものになった。在外公館から在留邦人や短期渡航者向け安全対策情報の提供頻度も増えており、併せて海外安全に関わる各種団体の支援・協賛等が効果的に影響していると筆者は見る。
こうした努力、貢献もあり、2019年は日本人が大きな犯罪被害に遭遇した件数は比較的少なかった。しかしその中に、スリランカとアフガニスタンで日本人がそれぞれ1人、テロの犠牲になったことにも留意し、なお一層の安全対策が求められる。

(5) 交通事故
海外で交通事故により死傷される邦人は少なくない。企業・団体の安全担当者は、社員に対して交通安全についての継続的、効果的な注意喚起(注)を行い、事故発生時の対処要領を心得ておくことも必要である。
(注)交通安全3原則の遵守: ①法定速度内で走行、②後部座席もシートベルト着用、③飲酒運転の禁止
外務省の海外邦人援護統計によれば、近年の交通機関事故による死傷者は、2015年:死亡20人、負傷88人、2016年:死亡26人、負傷78人、2017年:死亡21人、負傷43人、2018年:死亡20人、負傷70人。
外務省統計では、2018年の主な交通事故として下記が上げられている。
1月: タイ・チェンマイで、オートバイ乗車中の交通事故により邦人1人死亡
3月: インド・チェンナイで、タクシー乗車中の交通事故により邦人1人死亡
3月: ケニア・ボイで、自動車乗車中の交通事故により邦人1人死亡
4月: 英国・ロンドンで、自動車乗車中の交通事故により邦人1人死亡
5月: 米国・ヨセミテで、自動車乗車中の交通事故により邦人1人死亡
6月: 米国・ホノルルで、自動車乗車中の交通事故により邦人1人死亡
9月: トルコ・イスタンブールで、路面電車の事故により邦人1人死亡
10月: 米国・マイアミで、自転車乗車中の交通事故により邦人1人死亡
10月: フィンランド・トゥルク近郊で、自動車乗車中の事故により邦人1人死亡
◎なお、2019年は邦人が大規模の交通事故に遭遇された事案はなかった(当会調べ)。

(6) 健康管理
 ①海外で流行中の重大感染症について、2019年の特記事項として以下が上げられる。
 ・コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の再流行
  2018年7月25日、コンゴ民主共和国はエボラ出血熱の流行終息をようやく宣言した。ところが、翌
  週の8月1日、東部の北キブ州で再びエボラ流行について宣言することになった(同国での流行宣言
  は1976年から10回目)。同年8月から2019年12月17日までの症例数は3,351人、死者2,217人
  (WHO発表)。最近、新規症例数は(週に)10人~20人と減少してきているが、現地治安悪化もあ
  り流行が続いている。
  他方、WHOは2019年6月11日,ウガンダでエボラ出血熱の感染が確認されたと発表(その後の発
  生情報はなし)。また、7月31日、コンゴ民主共和国から帰国した邦人女 性1人が発熱症状を訴え
  て国立感染症研究所で検査の結果、「陰性」という事例があった。
 ・2015年に流行が確認されたジカウイルス感染症について、感染者は減少しているが、
  WHOは中南米、東南アジア、アフリカ等で現在も注意を呼びかけている。有効なワクチンはない
  のでジカウイルスを持ったネッタイシマカやヒトスジシマカに刺されないように注意。妊娠及び
  妊娠予定の女性は感染伝播が伝えられる地域には、できるだけ渡航を控える。
 ・中東呼吸器症候群(MERS)は、2012年にサウジアラビア・ジェッタで確認された新しい感染症
  で、主に中東地域で流行している。2012年~2019年11月の世界の感染者総数は2,494人、死者
  858人(WHO報告)。韓国では2015年、中東出張から帰国した男性による感染拡大で感染者186
  人、死者38人の被害が出た。感染予防には、ラクダとの接触や、ラクダの未加熱肉や未殺菌乳
  の摂取を避ける。
 ②インドや中国では毎年秋~冬期にかけ,深刻な大気汚染が発生する。2019年は特にインドが深刻
  で、大気汚染レベルを独自に計測している在印米大使館によると、PM2.5の大気汚染指数は11月
  3日朝、810に達した。WHOは健康に害を及ぼさない指数値として25以下を推奨している。この指
  数が100を超えると極めて有害で、健康な人にとっても危険なレベルとみなされる。
  大気汚染は、地域によって状況が異なるので,渡航・滞在先の汚染状況を確認し,健康上必要な
  予防措置(不要不急の外出を控える、外出時にマスク着用、室内では空気清浄機等を使用)を心
  がける。
 ③世界では狂犬病で毎年、数万人が死亡している。その殆どがアジアとアフリカで発生しているが、
  北米、欧州の一部地域でも感染の恐れがある。
  2019年5月、フィリピンを旅行中のノルウェー人女性が助けた子犬に噛まれて、狂犬病で亡くなっ
  た。
 ④アジア・アフリカ・欧州等で、麻しん・風しんの感染例が多く報告されている。2019年11月27
  日、WHOは2019年1月~11月5日の間の麻しん感染例は、世界187ヶ国から44万例の報告があっ
  たと発表した。
  日本厚生労働省も風しんの予防接種を受けていない人に接種を促している。
  米国疾病対策センター(CDC)は2018年10月、日本で風しんが流行しているとして、予防接種や
  過去の感染歴がない妊婦は、できるだけ日本に渡航しないよう勧告している。

【Ⅱ】2020年の展望

(1)テロ・誘拐の動向
 ①ISはイラクとシリアにまたがる領域を失ったが、シリア北西部ではISの活動は小規模ながらまだ
  続いている。2019年10月27日、IS指導者のバグダディ容疑者が殺害されたことは組織に大打撃を
  与えたが、ISは10月31日、アブー・イブラヒムなる人物を新たな後継者と発表し健在をアピー
  ル。
  また、インターネット上では依然広報活動が行われている。週刊の機関誌「アルナバ」の発行も
  続いており、グローバル・ジハード(聖戦)を呼びかけている。組織は衰退したが世界各地に19
  のISの州・支部もあるとされる。また、IS外国人戦闘員らが他の紛争国に移動したり、出身国に
  戻ってテロ活動を行うケースも起きているので、今後もISの影響を受けたテロが続く可能性は高
  い。
 ・アイマン・ザワヒリが指導者のアルカイダとその関連組織はシリアやアフガニスタン、アフリカ
  等の一部地域で活動しているが影響力は縮小。最近、ザワヒリの消息情報が途絶えていることに
  加え、2019年7月には最有力後継者と目されていたハムザ・ビンラディン(オサマ・ビンラディ
  ンの息子)が殺害された模様との米紙報道もあった。
 ・他方、IS、アルカイダ以外にも世界にはテロ活動を行っている幾多の過激派組織が存在する⇒主
  なものでも、タリバン(アフガニスタン)、アルシャバブ(ソマリア)、ボコ・ハラム(ナイジェ
  リア)、ジェマ・イスラミア(東南アジア)など。そうした中で、近年アフリカでテロが増大し
  ている。アラブ人が大多数の北アフリカ諸国のみならず、イスラム教徒が多く住むサハラ砂漠以
  南、西アフリカ、東アフリカ等でイスラム過激派の活動が活発である。開発失敗や汚職、失業、
  貧困等で国が信頼を失い混乱状態のところに、近隣の中東から過激イスラム主義が入り込んで、
  組織的なテロ活動を行っている。
 ・また欧米諸国を中心に、過激思想に染まってテロを行うホームグロウン型(自国育ち)やローン
  ウルフ型(一匹狼)のテロも目立つ。
 ②オーストラリアに拠点を置くシンクタンク「経済平和研究所(Institute for Economics and
  Peace:IEP)」が2019年11月20日、「世界テロリズム指数2019年版」を発表した。それによ
  れば、
 ・2018年のテロによる死者は、世界で1万5952人(前年比15.2%減)で4年連続で減少。
 ・テロが1件以上発生した国の数は103カ国に上り、犠牲者が1人以上出た国は71ヵ国。世界で最も
  テロによる死者が多い国はアフガニスタンで、2018年、7,379人だった。
 ・欧州は2年連続でテロによる死者数が減少しており、2018年は245件で62人(2017年は200人以
  上)だった。
 ・西欧、北米、オセアニアでは極右テロが5年連続で増加し、2019年は9月末までに77人の犠牲者が
  出た。
 ③各国で治安当局のテロ取り締まり強化が進み大規模テロは減少しているが、今後もテロが継続する
  見通しである。 外務省・在外公館、危機管理会社等からの情報入手に努め、テロの標的になり易
  い(政府・治安施設、公共交通機関、マーケット等の)不特定多数が集まる場所では用心する、
  また危機に際しては機敏に対処(伏せる、逃げる、隠れる)が有効である。
 ④誘拐について、世界では年間2~3万件の発生があるとされるので、特に誘拐発生地域では警戒を怠
  らず、万一、誘拐事件が発生した場合の対処要領も知っておく。

(2)中東情勢の行方
 ①イラン核合意からトランプ米大統領が2018年5月、離脱を表明しイラン制裁を再開した。これに反
  発してイランは2019年7月以降、ウラン濃縮度の上限超過、禁止された濃縮施設の再開などの核合
  意からの離脱を進めてきたが、2020年1月上旬にはイラン核関連施設への査察制限を行うと「合意
  破り」を示唆し、核合意の継続を求める欧州側を揺さぶる。
 ・米国は2019年4月、イラン原油の全面禁輸を、又5月には空母打撃群と爆撃部隊をペルシャ湾に派
  遣することを発表した。そうした中で、5月にUAE・フジャイラ沖で商業船4隻が攻撃を受けたり、
  6月には日本関係タンカーなど2隻がオマーン沖で被弾したりする事件が相次いで勃発(犯人は不明
  のまま)。トランプ大統領は6月20日、米偵察ドローンがイランによって撃墜されたことを受け
  て、直ちにイランへの軍事攻撃に踏み切る決断をしたが、攻撃10分前に撤回したことを明らかにし
  た。
  慎重姿勢を示した反面、弱腰を見せたとの批判も出た。
 ・米国はペルシャ湾、ホルムズ海峡周辺の安全確保のため有志連合を募っているが、日本は有志連合
  には参加せず調査・研究の目的で独自の派遣の形をとり、自衛隊を中東海域へ派遣することを
  2019年12月に決定し、近く派遣される。
 ・イランは、国外のシーア派などの勢力の拡大を支援している(シリアのアサド政権、イエメンの
  フーシ派、レバノンのヒズボラ、パレスチナのハマス、イラク政府等)。2019年9月14日、サウジ
  アラビア東部のアラムコ石油施設2カ所が攻撃を受けて、日量570万バーレルの生産(サウジ生産
  の50%)が一時停止する事件が発生し、フーシ派が犯行声明を出したが、犯行手口からイラン関
  与説の報道も流れた(事件は未解明のまま)。
 ・サウジはUAE、バーレーン、エジプトとともに2017年6月にカタールへ一方的に断交を通告し、孤
  立したカタールはイランに接近したことから、対イラン包囲網づくりを急ぐ米国はイランへの圧力
  の妨げになるとしてサウジにカタールとの和解を呼びかけ、最近サウジ・カタール間で雪解けが始
  まったとの報道がある。 
 ・米国の制裁強化に苦しむイランでは、政府が11月にガソリン価格を引き上げたことをきっかけに
  11月中旬から各地で大規模の反政府デモが続き、多数の死者が出た。
 ・イランを巡る今後の情勢は極めて流動的で、何が起きるか予測困難なため、最新情報の入手と専門
  家の分析・意見等も踏まえて適切にリスクに対処する備えが必要である。
 ②リビアで東西勢力の内戦が泥沼化している。西の首都トリポリを拠点とするシラージュ暫定政権と
  東のベンガジを拠点とするハフタル司令官の武装組織が戦闘を続けている。シラージュ暫定政権に
  は国連、イタリア、トルコ、エジプトなどが支援し、ハフタル司令官の武装組織にはロシア、サ
  ウジアラビア、UAE、フランス等が支援している。
  2019年12月26日、トルコのエルドアン大統領はリビア派兵を発表し暫定政権への支援を表明。リ
  ビア情勢は更に混迷を深め、内戦の拡大・長期化の恐れがある。

(3)その他の世界情勢
 ・2020年も米中覇権争いが進展し、世界の政治、経済に大きな影響を及ぼす可能性が高い。
 ・2020年11月3日の米大統領選挙は、トランプ氏の再選か民主党候補の勝利かが最大の注目点である
  が、混沌の世界情勢であり、どんな事態の展開にも備えておくことが必要である。
  2020年のその他の注目選挙として、台湾総統選挙(1月11日)、香港特別行政区立法会議員選挙
  (9月予定、日本の国会に当たる)、ミャンマー総選挙(11月予定)がある。
 ・習近平国家主席が国賓として訪日(20年4月予定) ⇒北京で19年12月23日、安倍首相と習近平国
  家主席との首脳会談が行われ、(日本側説明では)国賓訪日、東シナ海問題、拘束されている日本
  人の早期帰国を要求、朝鮮半島の非核化など様々な事案が話し合われた。
 ・世界の難民・避難民は7000万人を突破し、前年より230万人増加(2019年6月、国連UNHCR発
  表)。
  紛争・内戦が絶えず、増加が止まらない。

【Ⅲ】NPO法人海外安全・危機管理の会(OSCMA)の活動

 ①当会は、2019年4月より、菅原 出(国際政治アナリスト)が代表理事に就任し、「人を育て社会
  に貢献する危機管理の総合シンクタンク」として、3つの事業に取り組んでいる。
 ②新生OSCMAの3つの事業は、外交・安全保障プロジェクト、海外安全・危機管理プロジェクト、
  災害危機管理サバイバル教育プロジェクトで、19年4月~12月の主な活動は以下の通り。
 ③外交・安全保障プロジェクト
  ・外交・安全保障月例セミナーの開催
  ・OSCMA危機管理シンポジウムの開催(5月及び12月)
  ・外交・安全保障サマーセミナーの開催(9月)
 ④海外安全・危機管理プロジェクト
  ・OSCMA危機管理情報のデイリー発信
  ・海外における安全対策、危機管理対策についての各種講演会、セミナーの開催(毎月)
  ・海外安全スペシャリスト認定試験
 ⑤災害危機管理サバイバル教育プロジェクト
  ・72時間サバイバルコーチ養成講座(72時間サバイバル教育協会との共催で11月に実施)

2020年も3つのプロジェクトの充実した活動に取り組みます。引き続き、当会のNPO活動へのご理解、ご指導、ご支援の程宜しくお願いいたします。

(備考)2019年日本人・日本企業に関連した主な事件・事故等

1. 3 韓国の裁判所が元徴用工訴訟をめぐり、新日鉄住金が韓国内に持つ資産の差し押さえを認める
    決定を下す
1. 15 ケニア・ナイロビのホテルとオフィス入居の複合施設をソマリアのイスラム過激派、アルシャ
    バブが襲撃し、21人死亡、約30人負傷(オフィス入居の日本企業3社は、全員無事)
1. 23 ベネズエラで大規模な反政府集会が開かれ、グアイド国会議長が暫定大統領への就任を宣誓
    し、米国やブラジルがグアイド氏を承認
2. 7  中米ベリーズ・ベリーズシティで邦人親子2人が自宅前で車から下りたところを少なくとも4人
    組強盗に襲われ1人死亡、1人重体
2. 14 中国・広州で日本人商社マンが18年2月に国家公安局に拘束されたことが明らかになる  
2.   カシミール地方でのイスラム過激派テロをきっかけに、インドとパキスタン双方の空軍機がそれ
    ぞれ相手地域を空爆し、一気に緊張が高まる(日系企業は当該地域への一時出張自粛措置)
2. 27 ベトナム・ハノイでトランプ大統領と金正恩委員長との米朝首脳会談が開催されるが、非核化
    交渉は決裂
3. 19 エチオピア・オロミア州で武装組織が車両を襲撃し、鉱山会社勤務の5人を殺害(内邦人女性1人
    を含む)
3. 25 米トランプ大統領が(イスラエルがシリアから占拠する)ゴラン高原についてイスラエル主権
    を認める文書に署名
4. 21 スリランカでイスラム過激派ナショナル・タウヒード・ジャマア(NTJ)による同時多発テロ事
    件、257人死亡(内邦人1人を含む)、約500人負傷(内邦人4人を含む)
4. 22 米がイラン原油の全面禁輸を発表。又、5月5日、空母打撃群と爆撃部隊をペルシャ湾に派遣す
    ると発表
6. 9 香港で逃亡犯条約改正案反対の大規模デモが行われる 
6. 20 イラン革命防衛隊がイラン領空で米偵察ドローンを撃墜したと発表。これに対して米はイラン
    への軍事攻撃を行う準備を進めたが、攻撃直前に取り止めた
6. 22 オマーン湾で日本関係のタンカー1隻と台湾関係のタンカー1隻が被弾(犯人不明)
7. 4 日本政府が韓国向けフッ化水素等3品目の輸出管理強化。韓国は対日批判キャンペーンを展開
9. 14 サウジアラビア東部のアラムコ石油施設2カ所が攻撃を受け、日量570万バーレルの生産(サウ
    ジ生産の約50%)が一時停止(犯人不明)
10. 6 トランプ大統領がシリアからの米軍撤退を表明。トルコ軍が10月9日、クルド人武装勢力を排除
    する目的でシリア北部へ侵攻(平和の泉作戦)
10. 18 中国を訪問した北海道大学の教授が9月8日、反スパイ法違反で中国当局に拘束されていること
    が明らかになる(11月15日解放)
11. 18 米国はパレスチナ自治区ヨルダン川西岸でイスラエルが建設した入植地について、国際法違反
    と見做さないと発表
11. 24 香港の区議会議員選挙が行われ、政府に批判的な民主派が圧勝
12. 4 アフガニスタン・ジャララバードで中村哲医師ら6人が車で移動中に襲撃を受けて殺害される

以上


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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