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ミャンマー:宗教対立が深刻化

2014年07月07日

ミャンマー第2の都市、中部のマンダレーで、7月1日午後8時頃から翌2日未明にかけて、市内のイスラム教徒居住区で仏教徒とイスラム教徒が衝突した。2日午後には市内中心部に約7万人が集まり衝突が繰り返されて、4日朝までに2人が死亡し、14人が負傷した。

きっかけは、マンダレー市内で働く仏教徒のウエイトレスがイスラム教徒の店主によって暴行を受けたとの噂が広まり、仏教徒がイスラム教徒居住区を襲撃したことによる。500人以上の治安部隊が鎮圧にあたり、3日には市内に夜間外出禁止令が発令されて、騒ぎは収まった。

ミャンマーでは、仏教徒とイスラム教徒の対立が深刻化している。
2011年にミャンマーが軍政から民政に移管されて表現の自由が認められるようになり、軍政下では表面化しなかった宗教上の対立が顕在化するようになった。2012年6月、(バングラデシュとの国境地域にある)西部のラカイン州で、少数民族のロヒンギャ族とみられるイスラム教徒3人が仏教徒女性を暴行して殺害した事件をきっかけに、仏教徒がイスラム教徒を襲撃して、州内各地に暴動が広がり多数の死傷者がでた。ラカイン州では同年10月にも暴動が再燃し、その後も衝突が断続的に起きている。今年に入って、3月には、仏教徒が同州にある国際援助団体の事務所をイスラム教徒に肩入れしているとして次々に襲撃し、他方5月には、イスラム教徒(ロヒンギャ)グループが(取締りにあたる)警察官の詰所を襲撃するなどの事件が相次いでいる。

2013年3月には、中部のメイッティーラにも騒動が飛び火した(市内にはイスラム教徒約3万人が居住している)。イスラム教徒が経営する金製品の店で始まった口論から仏教徒とイスラム教徒の衝突が起きて、40人が死亡。また、同年4月にはヤンゴン域内の北部オウカンで仏教徒がイスラム教徒施設を破壊する事件も発生し、騒ぎはミャンマー全土に広まった。

ミャンマーでは仏教徒が89.3%を占め、イスラム教徒が3.8%、キリスト教徒が5%、精霊信仰が1.2%とされるが、これは1983年の統計によるもので、現在はイスラム教徒が5~10%を占めるとの説もある。イスラム教徒の人口増加や居住地域の広がり、強固な宗教的ネットワークを利用した事業展開等が、一部の仏教徒の間で、イスラム教徒への危機感の高まりや嫌悪感を生み、偏見や差別の芽を育んでいるとの見方がある。

ミャンマーでは現憲法にも記載があるように、「仏教は大多数の国民が信仰する、特別に名誉ある宗教」と位置付けられており、高僧の発言は大きな影響力を持つ。近年、一部の高僧によるイスラム排斥運動が広がっているが、運動の中心人物がマンダレーを拠点とするウィラトゥー師で、仏教徒女性とイスラム教徒男性との結婚の規制やイスラム教徒が経営する店に対する不買運動など、イスラム教に対抗する969運動(969は仏教の三宝である仏・法・僧を意味する数字)を提唱して、仏教徒大衆の反イスラム感情を増幅させているという。

ミャンマーでの宗教対立については、外国のイスラム教徒からの反発の動きもある。2013年8月、インドネシアの西ジャカルタにある仏教寺院の入口付近で手製爆弾が爆発し、3人が負傷する事件が起きたが、警察は、ミャンマーで続く仏教徒によるロヒンギャへの弾圧に反発する、イスラム過激派の犯行を疑っている。

テイン・セイン大統領は、国内で激しさを増している仏教徒とイスラム教徒の対立に強い危機感を示して、事態の解決に向けて武力介入する可能性を示唆しており、動向が注目される。アウンサンスーチー氏は、ロヒンギャ問題について積極的な発言は控えているようである。ロヒンギャを擁護すれば仏教徒から非難を受け、弱者のロヒンギャを見捨てると国際社会から反発を招く可能性がある。

ミャンマーのヤンゴン、マンダレー等の大都市における一般治安は比較的良好であるが、一部地域での仏教徒とイスラム教徒間の衝突は今後も発生する可能性が高いので、集会やデモの場所、宗教施設、治安施設等には近づかないように十分注意して下さい。

日本外務省は、ミャンマーについて、7月4日付で渡航情報「マンダレー市内における治安情勢についての注意喚起」を発出しているので、ご参照下さい。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2014C237
(平田 昇二)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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