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エジプト:ロシア機の爆破テロの可能性

2015年11月10日

10月31日、シナイ半島(エジプト東部)のシャルムエルシェイク空港を午前5時58分に離陸し、ロシアのサンクトペテルスブルグに向かっていたロシアの航空会社「コガリムアビア」のエアバスA321旅客機が、午前6時20分に交信を絶ち、シナイ半島北部に墜落。乗客乗員224人(大半がロシア人)は、全員死亡した。同日、イスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)のシナイ州」がインターネット上に「シリアに軍事介入したロシアを非難して、ロシア機を撃墜した」と犯行声明を出した。

発生当初、エジプトの事故調査当局幹部は「機体に異常があった」として、撃墜などのテロの可能性を否定。また、エジプトのシシ大統領は11月1日、「高度な技術を必要とする複雑な問題で、原因究明には墜落調査の結果を待つべき」とTV演説した。ロシアのソコロフ運輸相は、ISの犯行声明に対し、「真実とは考えられない」とテロを否定。11月2日、プーチン大統領は「何が起きたのか、客観的に究明しなければならない」と述べた。
その後、回収されたフライトレコーダー(機体の高度や速度を記録)やボイスレコーダー(操縦室内の会話を録音)などの分析から、テロ説が強まった。

11月4日、ハモンド英外相が「機内に持ち込まれた爆発物が爆発した可能性が高い」と発言。11月5日、オバマ米大統領はラジオのインタビューで「機内に爆弾が仕掛けられていた可能性がある。非常に深刻に受け止めている」と語った。米メディアは、「米政府の見方は、墜落直後にシナイ半島のIS戦闘員がロシア機を墜落させたことを誇る通信を米諜報機関が傍受して分析した結果が根拠となっている。また、墜落直前に瞬間的に強い熱が出たことを米軍事衛星が捉えており、同機が爆発したことを示す現象の可能性がある」と報じている。

プーチン大統領は11月6日、エジプト行きの全便の運航停止命令を出した。また、11月9日には、メドベージェフ・ロシア首相が、「テロの可能性も原因としてもちろん存在する」と述べて、テロの可能性ついて初めて明確に認めた。

シャルムエルシェイクは、シナイ半島南部に位置するエジプト第一の国際リゾート地で中東やヨーロッパ各地から多数の定期便、チャーター機が就航しており、世界的にも人気が高い。国際会議や首脳会議もここでたびたび開催されており、その期間中は要人警護のため厳重な警備体制が敷かれる。しかし、今回は特別な警備体制下になく、米、英等より杜撰な空港警備を指摘された。

エジプト本土では、2013年7月のムルシ政権の崩壊以降、各地で主に治安機関を標的とする爆破、放火等の事件が散発的に発生しており、特に2015年1月以降は、鉄道、電力等のインフラ施設、外国系のファストフード店や銀行等の周辺でも爆発事件が起きている。また、シナイ半島においても、治安部隊への攻撃や軍の検問所付近での爆弾テロ等が発生している。

犯行は、主にカイロを中心に活動するアグナード・マスル(「エジプトの兵士たち」の意)やシナイ半島を拠点とする「アンサール・バイト・アルマクディス(ABM)」によるものとされる。アルカイダ系と見られていたABMは、2014年11月10日にISに忠誠を誓う声明を出して、現在は「ISシナイ州」と名乗っており、勢力は700人~1,000人と見られている。

11月4日、ISシナイ州は、ロシア機墜落について、再び犯行声明をインターネット上に出して、攻撃を誇示した。最近、シリア、イラクの外でISテロが増加している中、今回の航空機テロは、米同時多発テロ事件(2001年9月11日発生)以来、初めて航空機を撃墜した大脅威のテロであり、中東や欧米の都市に潜みテロを企てるISテロリストらに影響を与える可能性がある。

外務省は、11月5日、海外安全情報「エジプト:シナイ半島を発着する航空機の利用に関する注意喚起」を発出して、シャルムエルシェイクに渡航予定の人・既に滞在中の人に対して,同地を発着する航空機の利用について慎重に検討するよう注意を促した。
(外務省海外安全情報)
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2015C328

テロは世界のどこでも起きる時代になっているが、特にイスラム過激派テロリストの活動が認められる地域では、利用する空港や(ISが敵とみなす国の)航空機の警備についても関心を持ち、最新情報を入手して注意を怠らないようにして下さい。 (長谷川 善郎)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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