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英国:ロンドン・テロ事件と安全対策

2017年03月29日

3月22日、午後2時40分頃、ロンドン中心部にある英国会議事堂付近の歩道を車が暴走し、多数の通行人を轢いた後、運転手が車から下りて議事堂敷地内に侵入を試み、警備の警察官をナイフで刺殺するテロ事件が発生した。通行人3人と警察官1人の合計4人が犠牲となり、少なくとも50人が負傷した(日本人の被害者はいなかった)。運転手(実行犯)は、その場で別の警察官によって射殺された。

実行犯はハリド・マスード容疑者(52才)で単独で犯行に及んだ。彼は英南東部ケント州生まれのイギリス人で南アジア系と見られる。10代の頃から傷害、暴行事件などを繰り返して粗暴な行動が目立ったが、2003年にナイフ所持罪で収監されてからは逮捕歴がなく、静かな暮らしを送っていた。イスラム教への改宗時期は不明であるが、(彼は2005年に現在のイスラム教徒にありがちな名前に改名しており)、収監された頃にイスラム教との出会いがあったのではないかと見られる。2004年にはイスラム教徒の女性と短期間結婚していた。イスラム教の礼拝日の金曜日には、熱心にモスクに通う姿があった。
2005年11月~06年11月と2008年4月~09年4月に英語教師として、また2015年3月にはメッカ巡礼のため、合計3回、サウジアラビアに渡航している。

ロンドン・テロ事件の翌日(3月23日)、IS(イスラム国)系列の通信社「アマーク」が、「襲撃者はIS兵士であり、連合国諸国の国民を攻撃せよとの呼び掛け応じて作戦を実行した」との短信を発表したが、短信にはIS兵士の名前や身元、実行犯だけが知り得る事実等の記載がなかったことから、ISが直接指示した犯行と認定するのは難しい。
ロンドン警視庁は3月27日、「マスード容疑者とIS等との関係を示す証拠は現時点ではない」と発表。また「誰かと犯行を打ち合わせた証拠や情報もない」とし、計画段階から単独犯であるとの見方を示した。

ISはイラクで勢力を失いつつあり、シリアでは軍事攻勢で劣勢にあることから、反撃のため支持者に欧米諸国でのジハード(聖戦)を呼び掛けており、(適当な攻撃手段がない場合は)手近にあるナイフ、拳銃、車両等の使用も示唆している。ISの広報誌「ルミヤ」の2016年11月11日付け配信では、「敵方の戦線」で戦う具体例として、フランス・ニースでの花火見物客に対するトラック突入テロ事件(2016年7月)を取り上げており、これが(同年12月に発生した)ドイツ・ベルリンでのクリスマス・マーケットへの車両突入事件に影響を及ぼした可能性がある。
ロンドン・テロ事件では、イスラム過激思想に染まったマスード容疑者が、例えばイラク、シリアで大勢のイスラム教徒が(有志連合軍の空爆等で)殺害されていること等に腹を立て、凶悪な犯行に走った可能性が考えられる。今回のテロは、ベルギー・ブラッセルでの空港、地下鉄テロ(2016年3月22日発生)からちょうど1年目の日に起きたが、連帯意思を表したものかも知れない。

2015年以降、欧州各国はフランスやベルギーで相次いだ武装グループによる大規模テロの再発防止に対策を講じてきたが、警備や監視が手薄な市民を狙ったローンウルフ(一匹狼)型テロとなると取り締まりは決め手を欠き、入手が容易な車両やナイフ等を使ったテロの場合、阻止は不可能に近い。
最近、欧州で起きた主な襲撃テロ事件には以下が上げられる。
・2015年1月 フランス・パリの政治週刊紙本社襲撃テロ
・2015年8月 オランダ・アムステルダム発パリ行き列車内で襲撃テロ
・2015年11月 フランス・パリで同時多発テロ
・2016年1月 フランス・バランスのモスク前で警備中の兵士に車両突入
・2016年3月 ベルギー・ブラッセルで空港、地下鉄連続爆弾テロ
・2016年7月 フランス・ニースで花火客に大型トラック突入
・2016年7月 フランス北部ルーアン近郊の教会襲撃テロ
・2016年7月 ドイツ・ミュンヘンのショッピングセンターで銃乱射テロ
・2016年12月 ドイツ・ベルリンのマーケットに大型トラック突入
・2017年3月 英国・ロンドンで車両暴走と襲撃テロ
1)テロはこれからも起きることが予想されるので、以下も参考に対策されたい。
 ①海外に赴任・出張する社員に対して安全講習を行う。
 ②海外出張者は、外務省海外安全ホームページに掲載の「たびレジ」に登録する(便利な「簡易登
  録」の方法もある)。
  外務省「たびレジ」⇒ https://www.ezairyu.mofa.go.jp/tabireg/
  今回のテロ事件でも、在英国大使館や外務本省から緊急通報、最新海外安全情報のメールがたびた
  び発出され、状況の把握、判断に役   立った。また、「在留届」を提出した在留邦人には別途
  メールによる連絡がある。
 ③テロの標的になり易い政府・治安施設,公共交通機関,観光スポット・施設,レストランやデパー
  ト、市場など不特定多数が集まる場所  を訪れる際は、周りの不審者、不審物に注意を払い,不
  審な状況を察知したら,速やかにその場を離れる。
2)緊急事態発生時には
 ①まず安否確認。今回のテロ事件でも、日本企業各社は直ちに安否確認を行った。
 ②注意喚起、対応措置の指示、及び状況に応じて対策本部を設置する。
 ③万一、社員が被害にあった場合を想定し、さまざまな緊急措置を検討して、できる限りの準備をし
  ておく。
 ④社員は大規模テロ発生の際は、(二次被害を避けるために)原則24時間、外出・行動を控えて、危
  険が去るのを確認する。

今回のテロについて、英メイ首相は3月23日、議会で演説し、「テロへの最善の対応は、何百万人の人が普段通り行動すること。敵の勝利を阻み、決して屈しないことを示そう」と呼びかけた。企業や人もテロに備えて対策の見直し、強化が求められる。 (長谷川 善郎)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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