ブラジル:サッカーのW杯を前に
2014年05月13日
6月12日から始まるサッカーのワールドカップ(W杯)を前に、ブラジルでは国境警備のために3万人規模の陸・海・空軍部隊が国境近辺に展開を開始したとの報道があった。不法移民の流入や武器・麻薬の密輸を阻止する目的で、この作戦は通常年3回行われているが、今回は過去最大規模になるとのこと。昨年6月のコンフェデレーションズカップでも国境警備作戦が行われ、大量の麻薬を押収して一定の成果を収めたとされる。ところでW杯開催に当たり、幾つかの懸念材料が指摘されている。第一が競技場建設の遅れである。開催12都市のうち3会場が未完成で、6月12日に開幕戦が行われるサンパウロ・アリーナは未だ突貫工事中である。レベロ・スポーツ相は、5月6日、国外メディアとの記者会見で準備は整うと発言し懸念を打ち消したので、ブラジルの底力の発揮が期待される。第二が治安である。昨年の3月9日付サンパウロ新聞に、ブラジルの治安状況を分析した「2013年暴力マップ」の記事があった。その中の銃撃による死亡事件に関する報告書によれば、ブラジルは銃撃による死亡件数が飛びぬけて多い。世界の人口上位12カ国中、ブラジルは年間3万6792件で第1位である(ちなみに第2はメキシコの1万7561件、第3位はインドネシアの1万3274件)。原因として、拳銃の入手が容易、暴力による紛争解決の文化が浸透している、犯人に対する処罰が甘い等が上げられる。防犯には、「危ない場所には近づかない」、「外ではいつも周囲に注意する」、「襲われてしまったら絶対抵抗しない」が基本となる。第三がデモである。昨年のコンフェデレーションズカップの開催時に、W杯への公費無駄遣いや汚職などに反発する若者らが大規模デモを行い、一時全国で参加者が100万人に達し、一部が暴徒化した。9月頃にはデモは沈静化したが、12月になってデモが再燃し、最近は、物価高騰に不満をぶつける市民のデモも目立っている。第四が警察官のストである。5月7日、W杯の開催都市となっている首都ブラジリア、リオデジャネイロ、北東部フォルタレザ等の一部警察官が賃上げを要求して時限ストライキを行い、要求が受け入れられない場合、W杯期間中に再びストを行うことを計画している。ブラジルは大会期間中に警察官15万人、民間警備員2万人を動員して治安維持にあたるとしており、ストが実施されたりすると犯罪を助長する事態にもなりかねない。
ブラジルでは今年10月に大統領選と州知事選のほか、国会と各州議会の上下両院議員の選挙が予定されている。再選を目指すルセフ大統領や開催地の知事らにとって、W杯を成功裏に終えることとブラジルチームの優勝が選挙戦を有利に導く可能性が高い。ルセフ大統領は4月29日、W杯を妨害する行為は徹底排除すると強調して、並々ならぬ意気込みを示した。
さて、W杯には世界から60万人の観光客がブラジルを訪れる。日本からも多くのサポーターが駆け付ける。外務省は、5月12日付で渡航情報「ブラジル:2014年FIFAサッカーワールドカップ・ブラジル大会開催に伴う注意喚起」を発出している。具体的に注意すべき事項が盛り込まれているので、ブラジルに渡航・滞在される方は是非ご覧頂くようお勧めします。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2014C169 (森 英二)
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