タイ:クーデターと安全対策
2014年05月24日
タクシン元首相派と反タクシン派の対立で政治混乱が続くタイで、5月20日午前、全土に戒厳令が敷かれた。タイ陸軍のプラユット司令官は、当初クーデターではなく治安回復のための戒厳令と説明し、政府、上院、与・野党、反政府デモ隊、政府支持派などの代表者を召集し、政治混乱を解決するための協議を行った。しかし、これが不調に終わったため、同司令官は、5月22日、憲法を停止し全権を掌握したと発表し、クーデターに踏み切った。タイでは昨年11月から、反タクシン派のステープ元副首相に率いられた(インラック政権の打倒を目指した)デモが続いていた。今年2月に実施された総選挙は反タクシン派の妨害で無効となり、5月7日には憲法裁判所による違憲判決でインラック首相が失職して、タクシン派と反タクシン派のデモ隊の間で衝突の懸念が高まっていた。タイでは1932年に立憲君主制に移行して以来、戒厳令は今回で19回目となる。戒厳令の発令により、外務省や在タイ日本大使館から在留邦人に対して、事態の変化に応じての状況説明や注意喚起の渡航情報がたびたび出され、在タイの日本企業も緊急事態への対応に取り組んでいる。ニュース報道によれば、日本企業の本社とそのタイ事業所が採った対策には様々なものがあるが、その一例として、筆者が知るある製造メーカーでは、当初、以下概要の対応を行ったので紹介する(ご参考まで)。〝タイ事業所は、戒厳令のニュースをキャッチして直ちに情報収集・分析を実施し、現地対策本部を設置。バンコク市内は平穏を保っていることやタイ経済界は戒厳令に概ね好意的な反応を示していることなどから、通常業務の継続を決めた(軍から夜間外出禁止令が出たので、一時夜間操業を停止したが、現在は通常体制に復帰)。タイに出張・滞在中の社員・家族の動向(安否)を確認。タイに出張予定の社員は、タイ事業所に出張スケジュールを連絡して、事業所と相談の上、目的、場所に応じて出張の可否を判断する。夜間外出禁止時間帯は外出を禁止。フライトは夜間の出発・到着時間とならないようにできる限り調整する。万一の事態悪化の可能性も考慮して食料、水、日用品などの備蓄と現金の保有。タイへの休暇旅行は、現地の安全状況を十分確認して決めるなど。”
クーデターにより全権を掌握した国家平和秩序評議会(議長:プラユット陸軍司令官)は、直ちに文民の暫定政権を置かず、当面は評議会が内閣の役割を果たす方針のようだ。軍事政権による直接統治が長期化すると、国内での反クーデターの抗議デモが激化し、国際社会からの批判も一段と強まる可能性がある。
ところで前回のクーデター(2006年9月発生、当時のタクシン首相の追放に係る)では、同年10月に暫定憲法の発布と暫定政権が発足。また、2007年7月には新憲法が制定され、同年8月に国民投票により新憲法が承認された。同年12月に新憲法の下での総選挙が実施され、2008年1月に文民政権が発足して、約1年4カ月ぶりに民政復帰した。
タイにおける当面の安全対策に関連して、外務省は5月23日、「夜間に空港に向かう人への注意事項と共に、不測の事態に巻き込まれないために、報道等を通じての最新情報の入手,不要不急の外出は可能な限り控えて、冷静に行動するなど、自らの安全確保に努めてください。」との趣旨の渡航情報を発出して、注意を呼びかけている。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2014C191
また、日本大使館のホームページ(海外安全情報)でも、最新の注意事項が掲載されているので、適宜ご参照下さい。
http://www.th.emb-japan.go.jp/ (長谷川 善郎)
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。