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メキシコ:ゲレロ州での学生失踪事件と安全対策

2014年10月22日

メキシコ進出の日系企業が最も心配することの一つに治安問題がある。メキシコは治安が良くないと言われるが、良し悪しのレベルは地域によって差が大きい。一般的に米国との国境地域や都市部で、犯罪(麻薬)組織が暗躍している地域の治安が悪い。他方、観光地は治安機関による警戒が重点的に行われているので、比較的リスクは低いとされる。外務省はリスクが高い地域に対して、渡航情報(スポット情報、危険情報)を発出しているので、どこの地域のリスクが高いかを確認できる(下記の外務省サイトを参照)。

メキシコ南部のゲレロ州は同国でも最も暴力事件が多い州の一つで、外務省は「十分注意してください」の危険情報を出している地域であるが、先月、ここで大事件が発生した。

9月26日、ゲレロ州のイグアラ市で、差別的な採用慣行に抗議するデモが行われ、これに参加した地方の教員養成学校に通う学生70人以上が、デモ終了後バスに乗って引き上げる間際、地方警官に行く手を阻まれ突如発砲された。バスから逃げ出した学生らは次々に撃たれて、6人(内、学生は3人)が死亡、25人が負傷、43人の学生が行方不明となった。翌日、学生らが州の司法長官事務所に行き事件を訴えたところ、当局者は事件そのものを知らず、行方不明の学生のことも掴んでいなかった。

その後、州の検察当局の捜査により事件に関わった可能性がある警官と(学生を連れ去ったと見られる)犯罪組織メンバーの50人以上が逮捕された。イグアラ市のアバルカ市長夫妻と警察署長の関与も疑われているが、現在3人の行方は分かっていない。市長と学生らの間には、過去の抗議行動に関係した何んらかの確執があったとの現地報道もある。

今回のイグアラでの殺害と行方不明は、地方の警察の浄化が一向に進んでいないことを示し、メキシコの多くの地域で警察は今も犯罪組織と手を結んでいることを推測させる。事件に抗議する全国的な大規模デモに対して、ペニャ・ニエト大統領は、10月6日、急遽記者会見を行い、「許しがたい行為」と事件を非難した上で、「治安部隊を派遣して真相解明を進め、必ず犯人に裁きを受けさせる」と表明した。

もし行方不明の学生らが殺害されていることが判明した場合は、ペニャ・ニエト大統領が2012年12月に就任以来、最大規模の虐殺事件となる。大統領は、治安対策を最重点政策の一つに位置付け、包括的犯罪対策や刑法改正、警察組織の改革等に取り組んでおり、これまでに犯罪組織の首領逮捕や全国殺人件数の減少等で一部その成果が見られる。

2014年8月14日、大統領は、海軍士官学校卒業式において、全国の2014年上半期殺人事件件数は、(フェリペ・カルデロン前大統領時代の)2012年上半期に比べ26.7%減少したと演説し、治安回復への自信を示したものと見られている。

統計によれば、全国の殺人事件は、11,048件(2012年上半期)、10,688件(2012年下半期)、9,523件(2013年上半期)、8,865件(2013年下半期)、8,101件(2014年上半期)と推移し、徐々に減少している。州政府、市当局による治安対策への継続的な取り組みと国軍・連邦警察による犯罪組織の取り締まり強化(特にタマウリパス州、ミチョアカン州)によるものと推測される。

但し、ペニャ・ニエト大統領就任以降、誘拐や強盗件数については増加傾向にあることから、このまま治安回復に向かって行くかは不透明である。

メキシコに渡航、滞在するに際しての基本的な安全上の注意点として、安全の5原則を上げたい。➀自分の安全は自分で守る(現地でどんなリスクがあるか情報収集。事情が分かる人から話を聞く)。②目立たない(外出時は周囲に溶け込む)。③行動を予知されない(通勤経路をパターン化しない)。④用心を怠らない(不要な金品は持ち歩かない。但し、ある程度の見せ金は携帯)。⑤襲われたら抵抗しない(相手は凶器を使って反撃する)。加えて、警備がしっかりしている安全なところに滞在する(安宿は避ける)、夜間の外出は控える、公共交通機関(路線バス、流しのタクシー)の利用は極力避ける等が大切です。詳しくは外務省の以下サイトを参照下さい。
(外務省サイト)
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=264#ad-image-0

在メキシコ日本大使館の報告によれば、在留邦人の被害は、2011年63件,2012年77件,2013年には111件。また,2007年後半からは,比較的安全とされていた地方都市でも邦人の被害が増加。地方都市で日系企業及び邦人数が増加していることから、地方都市での犯罪被害の更なる増加が懸念されるとのことです。
メキシコは魅力的な国ですが、安全には十分注意して頂きたいと思います。(森 英二)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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