フランス:ホームグロウン・テロリストによる仏週刊紙銃撃テロ
2015年01月13日
1月7日午前11時半頃、カラシニコフ銃を持った2人組が政治週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ本社を襲撃し、編集長ら12人を殺害した。2人組はフランスで生まれ育ったアルジェリア系の兄弟である。シャルリー・エブド紙はこれまでイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を繰り返し掲載しており、犯行はこれに反発したものである。兄弟は過去にイエメンで活動する武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の軍事訓練を受けた経験があり、弟は2008年にイラクの過激派に戦闘員を送ろうとして有罪判決も受けている。2人は犯行後、逃走して、パリ北東部の印刷所に立て籠もるが、1月9日、警察部隊との銃撃戦で射殺された。
他方、1月9日午後、武装した男がパリのユダヤ人向けの食料品スーパーマーケットを襲撃して買物客ら4人を殺害。その後スーパーマーケットに突入した警察部隊によって射殺された。犯人はフランスで生まれ育ったマリ系の男で、上記の2人と連携して蜂起したこと、また1月8日、パリ南郊で女性警察官を殺害したことを認めている。合計17人を殺害した3人は、ホームグロウン・テロリストである。今回の犯行は軍事的訓練を受けた者が周到に計画して実行しており、これまでフランスで散発的に発生しているイスラム・テロとは、規模の大きさ、組織立った行動において、明らかに異なる。1月9日、AQAPメンバーが、「預言者ムハンマドの名誉が汚されたことへの報復として、同組織が襲撃を指示した」と述べたとの報道がある。
フランスのオランド大統領は、1月7日、テレビ演説で「フランス全体に対するテロ攻撃であり、表現の自由と民主主義が標的となった」と述べると共に、1月8日を犠牲者追悼の日として国民に黙とうを捧げるよう呼びかけた。オバマ米大統領をはじめ、各国首脳もテロを非難して、フランスと共にテロと戦う決意を表明している。
1月11日には、オランド大統領の提唱により、「自由擁護」、「反テロ団結」の大行進がフランス各地で行われ、仏内務省によれば、参加者は全国で370万人を超えて史上最高となった。行進には、キャメロン英首相やドイツのメルケル首相ら欧州主要国を中心とする40人超の各国首脳も参加して、対テロ結束を訴えた。
他方、アラブ諸国の首脳は、テロ非難はしているが、崇拝する預言者ムハンマドを風刺画の対象とすることに不快感を抱く国民感情があり、事件については発言を控えている。表現の自由や政教分離の欧米の価値観と日常生活で宗教的規範を重んじるイスラム教の価値観との間で大きな溝がある。事件を契機に欧州でイスラム移民に対する反感が増大しているが、社会分断の危機に対して、今まさに相互理解と冷静な対応が求められている。
欧州各国には中近東やアフリカ、南西アジア等から移住した多数の住民がおり、最も多いフランスで人口の8%、500万人に上る。多くは貧困層に属して、不当な差別、偏見を受けている実態もある。失業や格差の拡大等から社会秩序への不満やネットワークを通じた巧みな誘惑等が、若者らを過激思想、行動に走らせる要因にもなっている。欧州各国からシリアやイラクに渡り、イスラム過激派武装勢力の「イスラム国」に参加する戦闘員は3,000人に上っており、帰国した者や欧州国内にいる支持者によるテロの可能性は、引き続き高いと思われる。
英国情報局保安部(MI5)のパーカー長官が1月8日、「シリアのイスラム武装勢力が英国など欧米で交通機関や象徴的な標的を狙い、多くの犠牲者を伴う攻撃を企てている」と警告した。英国からは約600人が武装勢力に加わるためシリアに渡っている。
テロが起きやすい地域での注意事項として、➀テロのターゲットになりやすい場所(例えば、人出が多いところ、マーケット、公共交通機関、軍・警察施設、宗教関連施設、政府関係施設等)では短時間で用を済ませるようにする。周囲に不審者・物がないか注意する。テロのターゲットになり易い場所や具体的な注意事項は、最新情報の入手や外務省の渡航情報、滞在地域の在外公館の安全情報等で確認する。②大規模テロが起きた場合は、今回のフランスでのテロ事件の如く、テロが連携して行われる可能性もあるので、(当局の指示も踏まえつつ)、外出を24時間くらい控えて安全状況を確認する。③爆弾テロでは、第2の爆弾が周囲で連続して爆発する場合もあるので、その場に留まるか、どの方向に避難するか、咄嗟の判断を行う。④テロリストに襲われそうになった場合は、逃げる、隠れる、抵抗するかしないかは自己判断の3要素がある。万一、拉致されたら、特殊部隊による救出作戦が行われるケースが多いので、その際の行動を想定して備える。
今回のフランスでのテロ事件を受けて、外務省は1月9日付で渡航情報「欧米諸国等におけるテロの脅威に関する注意喚起」を発出しているので、以下をご参照下さい。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo.asp?infocode=2015C009
(平田 昇二)
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。