エボラ出血熱対策についての一考察
2015年05月06日
関口 幸男
・昨春以降、ギニアに始まり隣国のリベリア、シェラレオネと、西アフリカ3か国を中心にエボラ出血熱(最近ではエボラウイルス病と称されることが多い)の流行がまだ続いている。
今年1月末、WHO(世界保健機関)は「感染伝播を減速させる段階」から「流行を終息させる段階に入った」と発表したが、拡大のペースは衰えているものの、まだ終息の見通しは立っていない。今年5月3日現在(WHO調べ)、同3か国で累計患者数は26,536人(推計を含む)、うち死者は10,980人に達している。昨年の3月25日時点では最初の発生国であるギニアの患者数が86人、うち死者が59人であったので、わずか1年余で患者数にして300倍強、死者180倍強に達している。ちなみに、その他の感染国としては、コンゴ民主共和国(患者数66人、死者49人、以下同様)、ナイジェリア(20人、8人)、マリ(8人、6人)、米国(4人、1人)、セネガル(1人、0人)、スペイン(1人、0人)、英国(1人、0人)である。
・致死率は50%から90%に達するともいわれ、かつ有効なワクチンや治療薬がないこと、日本の水際対策や国内の病院での対応遅れなどもあって、一時パニック的ともとれる国内報道がなされたが、本稿ではビジネスパーソンにとり、どう考えるべきかという視点を加えつつ以下論じてみたい。
・米国アトランタ市(ジョージア州)にCDC(全米疾病予防管理センター)という米国有数の機関がある。いわば世界一の疾病研究センターである。余談だが、筆者は20年前、同じアトランタ市にあるカーターセンターに2年余の間、出向した経験がある。CDCの建物は米国南部屈指といわれるエモリー大学のキャンパス内に併設されており、他方カーターセンターはカーター元米国大統領がエモリー大学と共に1982年に立ち上げた行動するシンクタンクである。筆者は赴任当初の1週間、CDCのすぐそばのスチューデントハウスに滞在し、米国の医療面での偉大な存在を肌で感じた経験がある。昨年秋以降、カーターセンターでは、関連が深いリベリアにおいてエボラ出血熱撲滅のために精神保健プロジェクトを立ち上げ、多数の医療専門家を現地に派遣して、CDCと共にエボラ出血熱と戦っており、奇しき因縁を感じる次第である。
・「エボラ」の名前の由来は1976年に遡る。現在のコンゴ民主共和国、エボラ川近くで一人の男性が最初に発症した。主な症状としては発熱、激しい頭痛、疲労感、筋肉痛、吐き気、下痢、胃痛、突然の出血、痣などである。ウイルスの自然宿主はオオコウモリ(フルーツバット)が有力と考えられているが、この病の一番の問題は「人から人へと感染すること」にある。CDCはそのホームページでこの辺の事情を詳しく報じているが、要は「患者や死者との直接接触を避ける、手洗いを十分行うこと」である。患者の血液や体液、喀痰、吐物、排泄物あるいは注射針からの感染には十分注意する必要があるが、空気感染あるいは通常食物からの感染、あるいは蚊からの媒介はないとされる。ウイルスの潜伏期間は2日から最大21日(平均8日から10日)である。
・日本への流入は幸いなことにこれまでまだないが、この潜伏期間もあって国の水際作戦は困難を強いられている。一方ビジネスパーソンが罹患する可能性については、医療関係者を除けば患者との直接接触の可能性が小さいことから、過度な心配は無用である。反面過度な楽観論も排除し、WHO、CDCや国立感染症研究所(日本)などから正確な情報を収集して冷静に行動することに尽きる。これらを念頭に通常の商用を現地で行うなら問題はないといえよう。
・それにしてもワクチンや特効薬がなく、致死率が極めて高いことは大変な脅威である。開発中と伝えられる治療薬やワクチンの完成が急ぎ、待たれる状況にあるといえる。
以上
筆者の略歴 : 伊藤忠商事(株)勤務、大学非常勤講師を経て、現職はエコノミスト