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メキシコ:大使館のホームページ情報からみる邦人被害状況

2015年08月31日

今年7月に、メキシコ最大の麻薬組織「シナロア・カルテル」のホアキン・グスマン元最高幹部が、収監されていたメキシコ市郊外にある刑務所から脱獄した。同元幹部の脱獄は2度目で、当局は今回の脱獄に手を貸したと疑われる刑務所職員22人を身柄拘束した、とのメディア報道があった。

メキシコでは、2000年代、特に2005年以降は麻薬等犯罪組織の抗争が増加して、治安が悪化した。このため2006年12月に就任したカルデロン大統領(当時)は、犯罪組織の撲滅に力を入れ、警察だけでなく軍隊まで使って徹底した取り締まりを行った。反発する犯罪組織から治安当局への攻撃や組織同士の抗争が激化し、同大統領の在任期間中、犯罪組織がらみの殺人被害者数は4~6万人に達したと言われる。

2012年12月に就任したペニャ・ニエト大統領も治安対策の強化に取り組んでおり、治安は改善傾向にあるが、効果はまだ一部に止まると見られている。誘拐事件を例にとると、2014年に1,394件発生し、前年の1,698件より18%減少した。但し、誘拐被害の多くは届けが出ないことから深刻な事態に変わりはない。

また、メキシコの治安環境には、治安が悪化している地域(犯罪組織の暗躍がある北部や中西部等の地域)と少なからずリスクがある(その他の)地域との2面性があるが、治安が悪化している地域で殺人件数が減少しており、治安改善の兆しが窺える。
こうしたメキシコにおいて、邦人被害の状況はどうなっているか。在メキシコ日本大使館のホームページに「安全情報」が記載されており、詳しく状況を伝えているので、その一部を要約してご紹介したい。
(1)邦人被害発生件数(暦年ベース)
  ・大使館に届出があったものの集計であるが、61件(2010年)、63件(2011年)、77件(2012
   年)、111件(2013件)、95件(2014年)となっている。
  ・近年、メキシコへの日本企業の進出が盛んで、邦人被害も増加傾向にある(メキシコ在留邦人数は
   2011年の7,303人に対し、2014年は9,186人に増加)。
(2)犯罪被害の件数(2014年ベース、カッコ内は前年、未遂を含む)
  ・強盗10(18)、恐喝3(5)、詐欺1(3)、傷害0(1)、強制猥褻0(1)、器物損壊2(0)、窃
   盗79(83)、合計95(111)
  ・上記の窃盗79(83)の内訳は、車上狙い45(36)、置き引き9(14)、空き巣6(13)、スリ9
   (9)、ひったくり4(5)、窃盗その他6(6)
  ・窃盗が79件と被害全体の83%を占め、特に車上狙いは45件(被害全体の47%)と多い。また、強
   盗は10件で被害全体の11%を占める。
  ・窃盗被害の大半はちょっとした注意で防ぐことができる。しかし、窃盗レベルと不用心になると、
   犯罪者はその場の状況から強盗に早変わりする場合も少なくないので、注意が必要である。
  ・誘拐被害は最近では2006年に1件発生したが、それ以降発生していない。 
(3)州別発生件数(2014年ベース)
  ・件数の多い順では、グアナファット44(強盗4、窃盗40)、メキシコ市17(路上強盗3、窃盗
   12、詐欺1、恐喝1)、ケレタロ8(窃盗8)、キンタナ・ロー6(窃盗6)、アグアスカリエンテス
   5(窃盗4、恐喝1)等となっている。
  ・近年多くの日本企業が進出した地方を中心に犯罪被害が増えている。

これまで言われてきた「地方は比較的安全」との状況が変わってきており、企業は安全対策への一層の取組みが求められる。大使館の「安全情報」では、邦人の犯罪被害の発生状況が1件毎に記載されており、予防対策にも役立つ。
(在メキシコ日本大使館ホームページ)
http://www.mx.emb-japan.go.jp/anzen.html

外務省はメキシコの治安リスクがある地域を対象に危険情報を発出して、注意喚起している。特に北部や中西部等で犯罪組織が関与する事件が多い地域には「レベル2:不要不急の渡航を禁止」を出して、厳重な注意を呼び掛けている。
(外務省海外安全ホームページ:メキシコ)
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcinfectionspothazardinfo.asp?id=264#ad-image-0

従い、現地滞在に当たっては、安全確保のため、以下も十分に考慮することが大切です。
①滞在先の最新の治安情報を入手する。外務省海外安全ホームページや大使館ホームページページも参照して、最新の注意点を知る。
②治安が悪化している地域に止むを得ない理由で滞在する場合は、厳重な警戒をする。また全国どこの都市にも危険な地区とそうでない地区があるので、危険な地区には立ち入らない。
③メキシコでは誘拐事件が多発しているので、安全のための3原則「目立たない」、「行動を予知されない」、「用心を怠らない」を守る。また、短時間誘拐(一時的に拘束してATM等で現金を引き出させた上で解放する)も頻発しているので、注意を怠らない。
④車上狙い、ひったくり、置き引き、ニセ札、ニセ警官等の被害が多いので、油断しない。
⑤現地に到着したら、現地の治安に詳しい人、或はホテルのコンシェルジュ等に防犯上の注意を聞く。
(長谷川 善郎)


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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