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パリ同時多発テロと企業の安全対策について

2015年11月20日

                                        長谷川 善郎

11月13日(金)、午後9時過ぎから1時間ほどの間に、パリの市内5ヵ所と郊外1ヵ所(サッカー場)の合計6ヵ所がイスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」に襲撃され、少なくとも130人が死亡し、352人が負傷した。日本人で被害に遭った人はいない。
同時多発テロは、武装した9人(3人ずつ3グループに分散)によって行われた。

①グループは、サッカー場(通行人1人死亡、容疑者3人自爆)、②グループは、飲食店4か所(客39人死亡、容疑者1人自爆、2人逃走)、③グループはコンサート・ホール(客89人死亡、容疑者3人自爆)、をそれぞれ襲撃。犯行現場で容疑者7人が死亡し、2人が逃走した。従来、欧州におけるイスラム過激派テロは、単独犯か、少人数によるものが多かった。今年1月、パリで起きた政治週刊紙「シャルリー・エブド」の本社襲撃テロでも犯人は2人だった。しかし、今回は実行犯の人数が多く、周到に計画し組織化されており、フランスを揺るがし、(9.11米同時多発テロを想起させて)世界に衝撃が走った。

オランド仏大統領は、TV演説を通じて、11月13日深夜、「前例のないテロで、フランスはテロに立ち向かわなければならない」と強くテロを非難し、「国家非常事態を宣言する」と、また14日午前、「テロはISの犯行」と断定した。
ISは、11月14日、「8人の戦闘員が堕落した都(パリ)を攻撃した。フランス軍のシリア空爆への報復」とインターネット上に犯行声明を掲載。また、「ISフランス州」を名乗る組織も同じ内容の声明をネット上に公表した。

国際社会は、オバマ米大統領をはじめ各国首脳がテロを非難して、フランスと共にテロと戦う決意を表明。11月15日からトルコで開催されたG20サミット(主要20か国・地域首脳会議)では、同時多発テロを「最も強い言葉」で非難し、テロ撲滅のため各国が協調して取り組むことを盛り込んだテロ対策の特別声明が採択された。

報道によれば、今回のテロには、上記の容疑者9人以外にも相当数が関わったとされる。首謀者はアブデルハミド・アバウド容疑者(27才、モロッコ系ベルギー人、シリアで戦闘経験)で、以前ベルギー国内で大規模テロを計画したとして逮捕状が出ている。
その他の犯行メンバーは、アラブ系のフランス人とベルギー人(複数がシリア渡航歴)、及びシリア人と見られている。

フランス警察は、11月18日、アバウド容疑者のパリ郊外サンドニの潜伏先を捜索し、銃撃戦でアバウド容疑者を含む2人を射殺し、1人が自爆した。フランスとベルギーの警察による捜査が進んでおり、更にテロ関与者が増える可能性がある。

パリ同時多発テロに際し、多くの日本企業は、駐在員、家族、現地社員等の安否確認を行うと共に、フランス等への渡航規制(当面出張自粛、不要不急の出張自粛等)、出張者のホテル一時待機、パリ店舗の臨時休業、旅行ツアーの見合わせ等を行い、安全確保、混乱回避を講じ、追悼の意を表した。

2005年10月末に、パリ郊外で移民の第二・第三世代の若者らが中心になった大規模な暴動事件が発生し、その後フランス全土の都市郊外に拡大した。背景には、貧困、失業、差別、格差、疎外感があって、若者の積もり積もった不満が一気に爆発したとされる。しかし、その後も状況の改善は余り進んでいないので、テロリストを生む土壌があると指摘する専門家が少なくない。また、ベルギーも似た環境にあり、特にブラッセルのモレンベーク地区は、過激派の温床とも呼ばれている。
フランス、ベルギーでは、今後もテロの脅威が続く可能性がある。また、米国については、ISが11月16日、米ワシントンへの攻撃を、また18日には、米ニューヨークへの攻撃を示唆する動画をそれぞれネット上に公開して、IS支持者に対米テロを煽っている。

テロはどこでも起きる時代と言われるが、特にISが敵と見なす国はターゲットになり易いので、継続して注意を喚起することが大切である。日本もISから敵と見なされているが、(キリスト教世界に属さないので)、攻撃対象の優先度は低いと思われる。しかし、過去に日本人が標的になった事例はあり、用心を怠れない。

企業の基本的なテロ対策としては、以下も有効と考えるので、ご参考にして頂きたい。
(1)テロの予防
①「危険な場所に近づかない」が、テロに遭わない重要なポイント。
 政治、社会、治安に関する最新情報を入手して、テロの動向を知る。(もし、テロのリスクがあれば
 )、危険な国・場所、発生し易い時間帯を調べる。そして、テロや誘拐に遭わないように注意する(
 不審者・不審物、目立たない、万一の時の対応等)。
②ネット上に掲載されている外務省の海外安全情報、在外公館情報を見て、内容を確認。
 一般的には、外国関連施設、マーケット等の人が多く集まる場所、ホテル等の観光施設、政府・警察
 ・軍関連施設、宗教施設、公共交通機関等がテロの標的になり易い。
③自社のオフィス・工場・サイト、輸送貨物等のセキュリティに弱点がないかチェック。  
④専門家、企業実務経験者等から(折に触れて)適切な助言を受ける。(できれば)対応模擬訓練に参
 加。また、他社安全担当者とネットワークを築き、自社安全対策の向上に繋げる。
⑤社内イントラ、社内会議等を通じて、リスク情報の発信を常に心掛け、国内、海外で注意の周知・徹
 底を図る。

(2)テロに遭遇した場合
①爆発音を聞いたら、伏せる、頑丈な物の下にもぐる。その後、逃げる又はその場に止まる(第1の爆
 弾をおとりに、第2の爆弾が仕掛けられている場合がある)。
②事件現場に居合わせたら、伏せる、逃げる、隠れる、抵抗しない(又は防御する)。
③大規模テロの場合、(二次被害に遭わないために)発生から原則24時間は、外出・行動を控え、危険
 が去るのを確認。

(3)テロが発生した場合
①本社は、駐在員、出張者、現地社員、取引先等の安否確認と、(状況に応じて)救助を行う。現地滞
 在者・出張者は、直ちに本社、在外公館等に安否を連絡。
②リスクの自社経営への影響を調べて、(必要に応じて)対策する。
③現地拠点責任者と打ち合わせ、出張規制、緊急避難、ビジネス対応策等を講じて、社内に周知・徹
 底。
④他社の対応状況も知って、自社対応をチェックする。
(筆者は、NPO法人海外安全・危機管理の会 代表)

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