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海外安全・危機管理 ― 2015年の回顧と展望

2015年12月25日

                              NPO法人海外安全・危機管理の会
                                      代表 長谷川善郎

本欄の「最新ニュース」では、2015年の1年間に、日本企業・団体の海外安全・危機管理に関する主な記事として、13件を掲載した。
記事の内容は、テロ(8件)、政情不安(2件)、感染症(2件)、治安悪化(1件)であるが、これらは企業・団体にとり、海外安全対策、危機管理対策の最注力分野でもある。

テロの関連では、イスラム過激派による7件のテロ事件を取り上げたが、今年はテロで始まりテロで終わる年になった(備考参照)。特にフランスでのテロ事件(2件)は、フランスを震撼させ世界に衝撃が走った。今年1月、フランスのパリにある政治週刊紙「シャルリー・エブド」の本社が武装した2人組に襲撃され編集長ら12人が殺害された。2人組はフランスで生まれ育ったアルジェリア系の兄弟で、同紙がイスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を繰り返し掲載したことに反発して犯行に及んだ。兄弟は過去にイエメンで活動する武装組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の軍事訓練を受けた経験がある。11月にも、パリの市内5ヵ所と郊外1ヵ所(サッカー場)の合計6ヵ所がイスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」に襲撃され、130人が死亡し、400人以上が負傷した。犯行グループは、9人(アラブ系のベルギー人とフランス人の合計7人及びシリア人2人)で、背後にテロ協力者も相当数いた模様で、9.11米国同時多発テロを思い出させた。

テロの背景にシリア、イラクでの内戦の影響がある。現地でISの戦闘に参加している欧州出身者は4,000人以上いて、さらにこの数倍の同調者、支援者が欧州にはいるとみられている。欧州には中東、アフリカ等のイスラム圏から出稼ぎ労働者や移民、難民として移り住んだ住民が多数いる。最も多いフランスで人口の8%、約500万人に上る。住民の大半は貧困層に属し、失業、差別、格差等から疎外感を抱いている。テロ組織はこうした若者のやり切れない不満や怒りにつけこむ。一部のモスクにいる過激思想の説教師や、ウエブサイトを通じて、言葉巧みに欧米に対するジハード(聖戦)に参加するよう若者らを煽動する。罪を犯して刑務所に入った若者が、刑務所内で過激思想に染まり出獄後、イスラム過激派に加わるケースも少なくない。

シリア・イラク内戦では、米軍主導の有志連合軍やロシア軍等の攻撃により、現在ISは劣勢に追いやられているが、シリア、イラクから逃走した戦闘員らが、他地域で地元の同調者、支援者と共謀してテロを実行する可能性もある。
シリアで今年1月、ISに拉致された日本人2人が殺害されるという痛ましい事件が起きた。ISは米国主導の有志国連合と協調する日本に対し、今後も日本人を標的としたテロを行うと脅迫しており、日本人もテロに巻き込まれる可能性が高まっているので、(テロが起こり得る地域では、常に)十分な注意が必要である。

米国務省が今年6月に出した「テロ活動に関する年次報告書」によれば、2014年に発生したテロは1万3,463件(前年比35%増)、死亡者は3万2,727人(前年比81%増)。95カ国でテロが起きて、内イラク、パキスタン、アフガニスタン、インド、ナイジェリアの5カ国で6割以上を占める。年次報告書はテロの脅威が増していることを明確に示している。

政情不安、治安悪化については、ベネズエラ国会議員選挙が上げられる。今年12月に行われた選挙で、野党が総議席(167議席、一院のみ)の3分の2を占める112議席を獲得してマドゥロ政権の暴走に一定の歯止めをかけることができるようになった。マドゥロ大統領の任期は2019年まであるが、経済崩壊(IMF見通し:2015年GDP成長率-10%、インフレ190%)や治安悪化のベネズエラのこれからの統治が注目される。他にも、11月にミャンマーで総選挙が行われアウン・サン・スー・チー議長率いる国民民主連盟(NLD)が、改選議席491議席のうち、390議席を獲得して過半数を占め、政権が交代することになった。今後、アウン・サン・スー・チー議長,テイン・セイン大統領及びミン・アウン・フライン国軍司令官の間で,政権移行に向けた対話が円滑に進むことが期待される。

感染症については、昨年3月、西アフリカを中心に猛威を振るったエボラ出血熱は世界保健機関(WHO)と国際社会が協調して撲滅に取組んだ結果、今年に入り感染者は大幅に低下した。
リベリアでは今年5月に流行終息宣言が出されたが、その後感染者が見つかったとの報告がある。シエラレオネでは、11月に流行終息が宣言された。ギニアでは、新規感染者数や感染地域が大幅に減少しているが、未だ終息宣言は出されていない。

WHOの11月25日付けの報告では、11月22日までの全世界のエボラ出血熱の感染者は累計で28,637人、うち死亡者は11,314人。この中には、上記3国以外で既に流行終息宣言を出したナイジェリアの感染者20人(内、死亡者8人)、セネガルの感染者1人、スペインの感染者1人、マリの感染者8人(内、死亡者6人)、英国の感染者1人及びイタリアの感染者1人を含んでいる。
2012年9月以降、中東呼吸器症候群(MERS)の感染者の発生が継続的に報告されているが、WHOの今年12月4日付け発表によれば、これまでに累計で1,621人が感染し、このうち関連死亡者は少なくとも584人に上る。

韓国では、5月、バーレーンから帰国した韓国人男性に同国初のMERS感染が確認され、その後国内で感染が拡大、累計で186人が感染し、内38人が死亡した(11月25日付け韓国保健福祉部発表)。但し、7月5日以降、新規感染者は確認されていない。
感染症の流行は、社会に深刻な影響を及ぼし、且つグローバルに対応が求められる問題であるので、感染症の流行状況の把握と予防が大切である。

日本人が海外で遭遇する被害について、外務省の海外邦人援護統計によれば、2014年に海外で事故・災害に遭った邦人の件数は194件(前年は255件)で、内6割が交通機関の事故(116件)、次いでスポーツ事故(43件)となっている。また犯罪被害については、5,040件(前年は5,353件)で、最も多いのが窃盗被害(4,140件)、次いで詐欺被害(429件)、強盗被害(227件)でした。海外では事故や一般犯罪が多発しているので、滞在者、渡航者は日頃から十分な注意が必要である。

来年の治安情勢について、IS等テロ組織の動向、地政学的リスク(シリア、リビア等の和平協議、ロシア・トルコ対立、欧州での難民問題、南シナ海領有権問題、ウクライナ問題等)、米大統領選の行方、原油価格の低迷等が、世界の治安に大きな影響を与える可能性があるとの見方があります。

当会では、小規模企業から大規模企業まで幅広く対象に、海外で発生する事件、事故、災害、緊急事態、感染症、経営上のトラブル等のリスクの防止・軽減、及び海外安全・危機管理の普及を図る事業に取り組んでおり、その一環として、2015年に公開講演会・セミナーを7回開催しました。
2016年も、情報収集・分析力を強化して、海外における安全対策、危機管理対策に関する情報の提供と適切な助言、並びに(できるだけ)きめ細かい対応に努めます。引き続き、ご支援のほど宜しくお願いいたします。 

(備考) 2015年日本人・日本企業に関連した主な事件・事故等
1月7日  イスラム過激派による仏政治週刊紙「シャルリー・エブド」のパリ本社襲撃事件(日系企業
     でもテロ注意を喚起)。
1月    シリアでISによる日本人(2人)殺害事件。ISは声明の中で今後も日本人を標的にする
     と予告。
3月18日 チュニジア・チュニスのバルドー博物館がイスラム過激派の2人組に襲撃され、外国人観光
     客ら22人死亡(内、邦人3人)、42人負傷(内、邦人3人)。
3月25日 ドイツ・ジャーマンウイングス航空機が仏南東部に墜落、乗客・乗員150人全員死亡(内、
     邦人2人)。
4月25日 ネパールでM.7.8地震。死者約9,000人、負傷者2万人以上(エベレスト・ベースキャンプで
       雪崩により邦人1人死亡)
6月    韓国で中東呼吸器症候群(MERS)の流行(日系企業でも注意を喚起)
8月12日 中国・天津の港湾地区の倉庫で大規模爆発事故(日系企業の工場や店舗にも被害)。
8月17日 タイ・バンコクの繁華街で爆弾テロ事件。20人死亡、140人以上負傷(邦人1人重傷)。
9月7日  インドネシア・ジャカルタのマンションで日系企業勤務の邦人女性が同マンション警備員に
     殺害される。
9月21日 フィリピン・ミンダナオ島沖のサマル島で,武装集団がホテルを襲撃して観光客ら4人
     (内、外国人3人)を誘拐(邦人女性1人は逃げて無事)。
10月3日 バングラデシュ北部で邦人男性が殺害される。ISが犯行声明。
11月13日 フランスのパリで、ISによる同時多発テロ事件。(邦人被害はない。日本企業はフラン
       スへの一時出張自粛)。

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