トルコ:軍事クーデター未遂と「たびレジ」の有用性
2016年07月25日
トルコで7月15日(金)午後10時頃(現地時間)、軍の一部が戦車や戦闘機、戦闘ヘリ等を出動させて蜂起した。軍トップの参謀総長を拉致し、首都アンカラの国会議事堂をヘリで空爆、イスタンブールのボスポラス海峡に架かる二つの大橋を封鎖、イスタンブールのアタチュルク国際空港は銃撃戦で閉鎖、午後11時半頃には、国営テレビを占拠して「国の全権を掌握した」との声明を発表した。
地中海沿岸の保養地で休暇中のエルドアン大統領は、16日午前0時50分頃、SNSを通じて民間テレビに出演し、市民に街頭に出てクーデターに抵抗するよう呼びかけ、多数の市民がこれに呼応した。軍の鎮圧作戦が本格化するにつれ、反乱兵士らは続々と投降し、午前11時頃、参謀総長代行がクーデターの失敗を宣言し事態は終息した。クーデター勢力と治安部隊の交戦で、市民を含む290人以上(内、反乱兵士100人)が死亡、1,500人以上が負傷した。
エルドアン大統領は、クーデターの黒幕は米国在住のギュレン師、また実行指導者は前空軍司令官のオズテュルク氏と断定(但し、両氏はいずれもこれを否定)。また、7月20日夜には、非常事態宣言(期間3か月間)を発令した。
政府はギュレン派の取り締まりに乗り出し、軍、司法、行政、教育等機関のギュレン師支持者らを大量処分。その人数は6万人以上とされる(報道ベース(7月19日現在):軍関係者6,319人拘束、裁判官2,745人職務停止、内務省8,777人・警察官7,850人職務停止、自治体知事ら77人解雇、教育省職員15,200人・私立学校教員等21,000人職務停止)。
報道によれば、ギュレン師は、トルコの国是である世俗主義とイスラムは矛盾しないと訴える比較的穏健な立場をとり、彼の支持者らは「ギュレン運動」の名の下に、国内外での教育、トルコ文化の普及、宗教対話や貧困解決への支援等を行っているが、組織や活動の実態面ではよく分からない点も多い。
公正発展党(AKP)政権の発足当初は(2002年)、エルドアン氏とギュレン師はイスラム重視で一致し協力関係にあったが、エルドアン氏が強権ぶりを発揮するのに伴い、ギュレン師は離反。2013年12月、エルドアン政権を巻き込んだ汚職疑惑を契機に両者の対立は決定的になり、エルドアン氏はギュレン派の粛清に動いた。
軍の中にはエルドアン氏の「世俗主義」や「民主主義」を脅かす手法に危機感を抱く勢力があり、今回の一部軍人(ギュレン派、反イスラム政党派等)による蜂起も、近く高等軍事評議会において、大佐以上の反エルドアン派軍人の一掃を図る人事が決まるとの見通しから、それに先駆けて行われたとの報道もある。
今回のクーデター未遂事件で幸い日本人の被害はなかった。
事件は、在留届提出者及び「たびレジ」登録者に対して素早く情報が伝達された。在アンカラの日本大使館が「クーデター発生の可能性あり、安全の確保に留意し、外出しないように」の第1報をメール配信し、続いて、在イスタンブール日本総領事館及び外務本省からの情報も加わった。
(「たびレジ」の簡易登録をしていた)筆者は、7月16日(土)06:10 (日本時間、トルコとの時差6時間) に、在アンカラ日本大使館からの第1報(上記)を受信し、その後7月22日までに在アンカラ大使館、在イスタンブール総領事館及び外務本省から受信したメールは合計16本に上り、最新の現地治安事情をタイミング良く把握できた。
最近は、駐在員には在留届の提出を、出張者には「たびレジ」の登録を義務付けしている会社も少なくないと聞く。今回も駐在員、出張者が、緊急情報を入手するのに役立ったと思う。
尚、「たびレジ」については、緊急情報のみならず、出張地域・国の海外安全情報も容易に入手でき、内容チェックができるので、セルフディフェンスに有用である。
トルコでの軍のクーデターの(近い将来の)可能性は、今回の大規模取り締まりで消滅したと思われる。しかし、強引な粛清は新たな混乱を招きかねない。混乱のスキをついたイスラム国(IS)やPKK(クルド労働者党)等によるテロの脅威も懸念される。
テロの標的となりやすい場所(集会・デモ、観光施設,政府関連施設,公共交通機関,欧米関連施設、レストラン,ホテル,空港、ショッピングモール,スーパーマーケット等人が多く集まるところ)を訪れる際は,周りの状況に注意を払い,不審者、不審な状況を察知したら速やかにその場を離れるなど,十分な注意が必要である。
詳しくは外務省・危険情報(以下)をご参照下さい。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo.asp?id=052&infocode=2016T073#ad-image-0
米国のイスタンブール総領事館も7月21日付で、米国民に対して「不要不急の移動を控えるように、特に公共の場所や欧米人・外国人が多く訪れる場所への移動を控えるように」の注意を勧告した。
軍の分裂によるクーデターは、市街で銃弾、砲弾が飛び交う状況も生じるので、極めて危険である。今回のトルコのクーデター未遂事件は半日で終わり、被害の拡大が抑えられたが、南スーダンでは、深刻な事態になっている。
キール大統領派とマシャール副大統領派が2013年12月に、武力衝突して内戦状態に陥った。国際社会の調停で、2015年8月に、和平合意が署名され、今年4月には暫定政府が発足した。しかし 7月8日、首都ジュバの大統領府付近で両派の銃撃戦があり、紛争再燃しこれまでに兵士、市民ら300人以上が死亡した。ジュバに滞在中のJICA関係者ら93人(日本人47人、外国人46人)は、民間チャーター機で、7月13日、隣国ケニアのナイロビに無事退避した。
海外における安全対策では、(地域・国により)軍事クーデターや暴動を想定した備えも必要となる。 (長谷川 善郎)
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。