グローバル:海外安全のこれからの課題
2018年08月27日
NPO法人海外安全・危機管理の会
代表 長谷川善郎
ポスト「イスラム国(IS)」の時代になっても世界各地でテロが多発し、加えて、世界情勢は混迷を深めており、治安環境の悪化が懸念されている。こうした中で、企業は海外安全への取組みのレベル・アップが求められて、現行の安全対策を見直し、整備・強化を図ることが喫緊の課題となっている。
企業の安全対策に取組む姿勢として、自助⇒共助⇒公助(政府からの情報提供、支援)はよく知られているが、今後は国際連携(外国諸機関・企業との協力関係)も必須のファクターになる。
これからの安全対策のレベル・アップには、社員と経営者が安全意識の一層の向上を図り、意識改革をして、安全対策のリソースの確保に取り組むことが極めて重要である。
Ⅰ.安全対策のリソースの確保
①情報共有(外務省、政府系機関と企業間の連携により、リスク・コミュニケーションを盛んにす
る)
②安全投資(社員と組織の安全を守るために必要な対策費、ITシステム開発)
③人材育成(安全担当者の知識・経験・コミュニケーション能力を高める、スペシャリスト養成の
キャリアパス)
④安全対策(安全担当者の任命、予防・有事・事後対策、安全研修、想定訓練、安全広報)
Ⅱ.上記の推進に当たり基盤となる体制の見直しと整備
①政府体制(外務省、政府系機関など)
②企業体制(安全責任部署、危機管理委員会、緊急対策本部、緊急連絡網、安否確認要領、本社・
海外拠点間連携)
③コンプライアンス(安全配慮義務、善管注意義務、内部統制システムの構築義務、社内安全規
定、安全マニュアル)
Ⅲ.次に、当面の具体的に取り組む重点事項として以下を提案します。
1.意識改革
1)社員は、(治安環境の悪化を踏まえて)安全責任部署や諸団体から安全情報を入手し、状況把
握して的確にリスクに備える。渡航者は外務省の「たびレジ」に登録して、安全確保を図る。
なお、「たびレジ」でも行われているように、安全情報はできるだけ渡航する社員のもとに直
接配信され、読まれる方法が望ましい。
2)経営者は以下を行う。
①安全責任部署を指定する。
②危機管理委員会(委員長は経営トップ)を定期開催し、(できるだけ)PDCA方式(計画、定
期報告、レビュー、監査)を導入して、リスク管理を行う。
③社内諸制度、安全マニュアル、注意喚起方法などが陳腐化、マンネリ化していないか見直す。
SKK(創意、工夫、継続)をスローガンに対策に取り組む。
④経営者は渡航する社員に「たびレジ」登録を指示(または勧奨)する。なお、「たびレジ」の
利用メリットを分かりやすく説明するために、例えば、外務省から、「①海外安全情報は(最
低でも)週1回程度発信されて現地最新情報を入手できる。②緊急時に安否確認が行われる。
③在外公館は速やかに(必要な)救援・救出活動を実施する。」などの広報が折に触れて行われ
ると更に効果が上がる。
⑤社内安全キャンペーンを実施する(役員や社員を対象とする安全講演会の開催やポスター掲示
など)。
2.情報共有
①産官学界が連携する海外安全対策の仕組みを作り、安全活動の質的向上と参加企業の増加を図
る。
米国では国務省のOSAC(海外安全対策協議会)に、産官学界の多数の安全関係者が参加メンバー
となり安全活動に取り組んでいる。
②関係企業、関係者間のリスク・コミュニケーション機会を増やす(当会:OSCMAでは情報交流
会や研鑽会等の開催を通じて、意見交換の場を作っている)。
3.安全投資
①安全教育・研修強化の一環として、安全啓発DVDの制作
②海外拠点・施設のセキュリティ調査、海外拠点のBCP作成(海外拠点社員の緊急時の行動要領)
③渡航者安全管理システムの開発(出張申請・許可―フライト・ホテル予約―予防接種―旅行者保
険―たびレジ登録―出張精算等の一連の出張者管理が可能。緊急時の安否確認・救助にも活用で
きる)。
④海外安全対策のマニュアル、危機管理規定、安全研修、想定訓練等の内容、方法を見直し、整備
する(OSCMAでも現在作業中)。
4.人材育成
①安全担当者の人材育成を図る研修プログラムを開発(OSCMAでも各種の安全研修に取り組んで
いる)。
②各種キャリアパス制度の導入(OSCMAでは、海外安全スペシャリスト認定試験を年2回、実施し
ている)。
5.安全対策
①赴任者・帯同家族・出張者を対象とする安全研修(OSCMAでは国内各地に研修講師を派遣)
②想定訓練(OSCMAでも簡単な防犯訓練を実施)
③SKK(創意、工夫、継続)の推進(OSCMAでは、アドバイザーを企業に派遣して各種相談に応
じている)
④海外において(在外公館主催の)安全対策協議会の定期開催と報告
⑤安全スローガンの作成(例えば、銃撃・爆発には、「伏せる、逃げる、隠れる」など)
⑥社内BCP担当者と安全対策での連携
Ⅳ.最後に、上記の推進には関係諸団体のアクションプランが有力な推進力になります。
①経団連、商工会議所等による安全対策についての積極的な取り上げ
②政府及び関係機関の定期的な安全広報キャンペーンの実施
③産官学界の諸団体による国際連携の推進(情報交流、国際会議、提携など)
海外安全対策の見直し、整備、強化に向けて、OSCMAも関係者とのコミュニケーションを一層盛んにして、少しでも貢献できるように課題に取り組んで行きます。今後ともご指導、ご鞭撻をお願いいたします。
以上
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。