海外安全・危機管理 - 2020年の回顧と展望
2020年12月28日
NPO法人海外安全・危機管理の会
専務理事 長谷川善郎
2020年の海外安全・危機管理を振り返ると、一番の取組みは言うまでもなく新型コロナウイルス感染症対策である。しかし、それ以外にも、世界ではテロ、抗議デモ、暴動、紛争等のさまざまな事案が発生し、対策が尽きない1年でした。
【Ⅰ】2020年の回顧
(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)
2019年12月に中国・武漢で原因不明の肺炎患者が初めて報告された。2020年1月に肺炎患者から新型コロナウイルスが検出され、世界各地に感染が広がり、世界は未曽有の事態に
陥った。各国はウイルスの感染拡大防止と経済の落ち込み回復の両建ての対策に取り組む。
< 2019年12月 > (赤字は日本関係)
・12月8日 武漢で原因不明の肺炎患者が初報告
・12月31日 武漢市衛生健康委員会が原因不明のウイルス性肺炎に27人が罹ったと発表
< 2020年1月~3月 >
・1月1日 局地的流行場所とされる中国・華南海鮮市場が閉鎖
・1月5日 WHOが武漢で原因不明の肺炎が発生したことを初公表
・1月6日 日本厚労省が武漢で原因不明の肺炎発生を公表
・1月9日 中国国営中央テレビ(CCTV)が肺炎患者から新型コロナウイルス検出と報道
・1月20日 中国の鍾南山国家衛生健康委員会専門家グループ長がヒトーヒト感染を発表
・1月20日 習近平国家主席が「断固としてウイルスの蔓延を抑え込む」の重要指示を出
す
・1月23日 武漢の交通機関の運行が全て停止(武漢封鎖)― 1月24日からの春節休暇で既に武漢市
民500万人が国内外に流出
・1月24日 日本外務省が湖北省(武漢を含む)の危険情報をレベル3(退避勧告)に引き上げ
・1月27日 日本政府は新型コロナウイルス感染症を「指定感染症」に指定
・1月29日 日本政府が邦人帰国のため湖北省に民間チャーター機を派遣
・1月30日 WHOが緊急事態宣言
・2月1日 日本政府は水際対策を実施(湖北・浙江両省、韓国・大邱市等に14日以内に滞在の外国人
の入国拒否)
・2月5日 横浜港に停泊したクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号で集団感染が判明
・2月26日 日本政府は大規模イベントを2週間程度、中止、延期、規模縮小を要請
・2月27日 日本政府は3月2日~春休みまで全国の小中高校の臨時休校を要請
・3月5日 日本政府は中国、韓国からの入国者に14日間の待機と公共交通機関の不使用を要請
・3月11日 WHOが新型コロナウイルスのパンデミック宣言
・3月13日 改正新型インフルエンザ対策特別措置法の施行(緊急事態宣言が可能となる)
・3月17日 EUが外国人の入域禁止措置(30日間)
・3月18日 JICAが青年海外協力隊員全員の一時帰国措置
・3月24日 東京オリンピック・パラリンピックの延期発表
・3月30日 小池東京都知事が夜間の酒場への出入り自粛を要請
< 4月1日~6月30日 >
・4月3日 トランプ大統領がWHOを「中国寄り」と批判
・4月3日 日本政府が日本入国者に対する水際対策の強化(危険情報レベル3の国・地域はPCR検査、
14日間の隔離、目的地まで公共交通機関の不使用)
・4月7日 日本政府が緊急事態宣言(7都府県が対象、期間は5月6日まで)
・4月10日 東京都が休業要請を発表(5月6日まで)
・5月18日 WHO総会で台湾のオブザーバー参加認められず、米中対立が先鋭化(トランプ米大統領は
5月29日、WHO脱退を表明)
・5月25日 日本政府は緊急事態宣言を全面的に解除
・5月25日 日本政府は新型コロナ感染症対策の基本的対処方針の変更を発表(外出自粛や施設の使用
制限の要請等を緩和)
・6月15日 米ロスアンゼルスで日本人経営の商店に「日本に帰れ」のはり紙
・6月18日 日本政府がベトナム、タイを対象にレジデンストラックの導入を発表(7月29日より)
・6月19日 日本厚労省が接触確認アプリ(COCOA)を開始
・6月22日 ドバイが外国人観光客の受け入れを7月7日に再開と発表(出発前にPCR陰性証明)
・6月29日 日本政府は水際対策の強化措置を決定(入国拒否国・地域に新たに18ヵ国追加、但し日本
人帰国者は除く)
< 7月1日~9月30日 >
・7月7日 ブラジルのボルソナロ大統領がコロナ感染を発表
・7月22日 日本政府は水際対策の新たな措置を決定(入国拒否国・地域に新たに17ヵ国追加、但し日
本人帰国者は除く)
・7月22日 日本政府の「Go To トラベル」がスタート(10月1日より東京を追加)
・8月28日 日本政府が新たな水際対策措置を決定(入国拒否国・地域に新たに13ヵ国を追加、但し日
本人帰国者は除く)
・9月8日 日本政府はレジデンストラック対象国・地域を追加(マレーシア、カンボジア、ラオス、
ミャンマー、台湾)
・9月18日 日本政府はシンガポールを対象にビジネストラックの開始
・9月19日 日本政府はイベント制限を条件付きで緩和(歓声を伴う大規模イベントは、上限人数の制
限が撤廃され、収容率の50パーセントまで入場可能など)
< 10月1日~12月28日 >
・10月1日 日本政府は国際的な人に、往来再開に向けた段階的措置を発表(防疫措置を確約できる受入
企業・団体があることを条件に、原則全ての国・地域からの新規入国を許可)
・10月2日 トランプ米大統領夫妻がコロナ感染を発表
・10月14日 フランスが3ヵ月ぶりに非常事態宣言、欧州で感染再拡大
・11月1日 日本政府は出入国制限の新たな緩和策を発表(海外に7日間以内の短期出張した日本人や
日本に居住する外国人が再入国する際、一定の条件下で14日間の待機を免除)
・12月3日 大阪府が「医療非常事態宣言」、自衛隊に看護師派遣を要請
・12月8日 イギリスでファイザー・ワクチンの接種が始まる
・12月14日 米国でファイザー・ワクチンの接種が始まる
・12月15日 「Go Toトラベル」全国一斉に一時停止(12月28日~1月11日)
・12月19日 英ジョンソン首相がコロナ変異種が見つかり、最大で7割感染が広がり易いと発表
・12月20日 変異種ウイルス拡大に対し欧州諸国は英からの旅客機受け入れ停止
・12月26日 日本政府が新たな水際措置(12月28日~1月末の間は全ての国・地域からの新規入国停
止、但し中韓等11ヵ国や日本人は除く)
・12月27日 世界の新型コロナ感染状況: 感染者数累計79,846千人、死者数累計1,751千人
(12月26日現在)
(2)テロ・誘拐
IS(イスラム国)は、シリアとイラクに築いた領土を失い弱体化したが、ネット上で過激思想の拡散やリクルート活動を続けている。パキスタン・クエッタ近郊のモスクでの自爆テロ(2020年1月10日)や チュニジア・スースで国家警備隊員への襲撃テロ(同年9月6日)、オーストリア・ウィーンでの銃撃テロ(同年11月2日)等ではISが犯行声明を出す。
イスラム過激派によるテロ犠牲者は、2019年は前年比15%減の13,826人だった(オーストラリア経済平和研究所調べ)。テロ犠牲者はアフガニスタンとナイジェリで減少したが、アフリカのブルキナファソやモザンビーク、マリ、ニジェール等では増加。
2020年はシリアやイラクで、再び過激派の活動が目立つようになり、ISと共にアルカイダの活動も見られる。
新型コロナについて、ISは2020年5月、欧米で外出禁止措置が敷かれていることは「神の罰だ」と主張。自分たちの敵(欧米人や異教徒等)と結びつけて、不安を持つ人々の関心を引こうとしている。
テロは極右グループ(白人至上主義者)によるものも起きている。新型コロナ禍で有色人種や移民に対する反感がテロを引き起こすケースもある
< 中 東・アフリカ>
・1月3日 イランのイスラム革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を米軍がイラク・バグダッドで
殺害
・1月10日 パキスタン・クエッタ近郊のモスクで自爆テロ(15人死亡、19人負傷)
・2月6日 イエメンでアラビア半島のアルカイダ(AQAP)の最高指導者カシム・リミを米軍が殺害
・2月17日 パキスタン・クエッタで、自爆テロ(10人死亡、35人負傷)
・3月6日 チュニジア・チュニスの米国大使館付近で、オートバイに乗った2人組が自爆(警官1人死
亡、5人負傷)
・3月6日 アフガニスタン・カブールで武装集団がシーア派指導者の追悼集会を襲撃(32人死亡,81
人負傷)
・3月7日 カメルーン・ガリムで武装勢力が警官隊を襲撃(8人死亡)
・3月11日 イラク・バグダッド北方のタジ基地に多数のロケット弾が撃ち込まれる(米国人2人と英
国人1人死亡、12人負傷)
・4月17日 エジプト・カイロ北東で、治安部隊が過激派の拠点を急襲(治安要員1人死亡、1人負傷)
・5月26日 パキスタン・イスラマバード市内の警察検問所を何者かが襲撃(警官2人死亡)
・6月29日 パキスタン・カラチのパキスタン株式取引所入口でバロチスタン解放軍(BLA)による爆
弾テロ(3人死亡,3人負傷)
・7月1日 マリ中部で武装集団が村襲撃(40人死亡)
・7月6日 イラク・バグダッドでイスラム過激派事情に詳しいハシェミ氏が銃撃されて死亡
・7月25日 スーダン・西ダルフールで武装した男たち約500人が町を襲い、住民60人以上を殺害
・8月9日 ニジェール・ニアメー南東のキリン保護区で、武装集団がフランス人のNGO職員6人、地元
ガイドら計8人を殺害
・8月12日 モザンビーク北部モシンボアダプライアの主要港をイスラム過激派が占拠
・8月16日 ソマリア・モガディシオのホテルを5人組のアルシャバブが襲撃(11人死亡)
・8月30日 エジプト軍が北シナイ県でイスラム過激派の70人以上を殺害
・9月6日 チュニジア南部のスースで4人組のテロリストが国家警備隊員3人を襲撃(1人死亡、1人
負傷)
・10月14日 タンザニア南部キタヤ村の軍施設を武装勢力が襲撃し死傷者多数
・10月20日 コンゴ民主共和国・北キブツ州のベニの刑務所を武装集団が襲撃(約900人が脱獄)
・11月1日 カメルーン・ヤウンデ市内のバーで即席爆弾が爆発(30人負傷)
・11月2日 アフガニスタン・カブールのカブール大学に武装集団が乱入して銃撃(22人死亡)
・11月6日 モザンビーク最北部カボ・デルガード州で「IS中部アフリカ州」が住民50人を斬首
・11月11日 サウジアラビア・ジッダでのフランス主催の記念式典で爆発(4人負傷)
・11月27日 イラン・テヘラン郊外でイラン核開発の著名な科学者ファクリザデ氏が暗殺される
・11月28日 ナイジェリア北東部・ボルノ州で,武装集団が農業労働者らを襲撃(110人死亡,多数が
負傷)
< 欧州、ロシア・CIS >
・2月2日 英国・ロンドン南部で男が突然ナイフで切りつけ2人ケガ
・2月19日 ドイツ中部ヘッセン州で「水たばこ」を提供する2つの店を外国人敵視思想の右翼ドイツ人
が襲撃(9人死亡)
・4月4日 フランス南東部ロマンシュルイゼールでスーダン難民の男が複数人を刃物で襲撃(2人死
亡、4人負傷)
・4月27日 フランス・パリ近郊で男が車で突進し、警官2人を負傷させる
・6月20日 英国・ロンドン西方レディングの公園で、リビア人の男が刃物を使って襲撃(3人死亡、3
人負傷)
・9月25日 フランス・パリのシャルリー・エブド元本社前でパキスタン出身の男が居合わせた男女2
人を刺傷
・10月16日 フランス・パリ北西の郊外で中学校教員がチェチェン系の男に路上で刺殺
・10月29日 フランス・ニースでチュニジア人の男が教会を襲撃(3人死亡)
・11月2日 オーストリア・ウィーン中心部の6カ所で北マケドニア出身の男による銃撃(4人死亡、17
人負傷)
< アジア >
・5月20日 インド北部ジャム・カシミール州スリナガルで,オートバイに分乗した武装集団がインド
国境警備隊員に発砲(2人死亡)
・8月24日 フィリピン南部のホロ島で、2度の自爆テロ(16人死亡、75人負傷)
・11月27日 インドネシア・スラウェシ島で人里離れた集落が武装グループに襲われ、キリスト教徒
住民4人が殺害される
< 北米、オセアニア、中南米 >
・4月18日 カナダ東部ノバスコシア州で警官を装った男による銃乱射(23人死亡)
・5月21日 米テキサス州のコーパスクリスティ海軍航空基地で銃撃(兵士1人負傷)
◎なお、誘拐事件については海外で多数発生しているが、日本企業・団体の身代金目的の誘拐事件はな
かった(当会調べ)。
(3)地政学的リスク
2020年に日本企業・団体の海外安全・危機管理に特に影響を及ぼしたリスクとして、以下が上げられる。
・米中の新冷戦は、通商、ハイテク分野を中心に制裁と報復を応酬することで深刻化。
・英国とEUは2021年1月1日以降、英国がEUから完全離脱することで合意(2020年12月24日)。
・ナゴルノ・カラバフ戦争が勃発(2020年9月27日)。アゼルバイジャンがトルコの支援を得てナゴル
ノ・カラバフ係争地に侵攻しアルメニアと交戦。アゼルバイジャンは高性能の軍事ドローン(イスラ
エル製やトルコ製)を多用して戦局を有利に運び、ナゴルノ・カラバフ係争地の一部を奪還した。
ロシアのプーチン大統領が仲介して、同年11月10日、両国は完全停戦した。戦争による死者は、両
国政府の発表によれば、アゼルバイジャン側は兵士2,783人+行方不明100人、民間人93人。アルメ
ニア側は兵士2,317人、民間人50人で両国の合計5,343人。9万人以上の難民が発生。
・イスラエルとアラブ諸国との国交正常化が米国の仲介により進展。一方、長年のアラブの大義(パレ
スチナ独立国家を建設し、イスラエルとの2国家共存を実現)に綻びが生じ、アラブ諸国内は分断。
2020年にイスラエルと国交正常化したアラブ4カ国は、UAEとバーレン(9月15日)、スーダン(10
月23日)、モロッコ(12月10日)。
・イエメンでは2015年3月から内戦が続く。スンニ派の暫定政権を支援するサウジアラビア/UAE等と
シーア派の武装組織フーシを支援するイランの代理戦争となっている。フーシによるサウジアラビ
アの都市、石油施設、空港等へのドローンやミサイル攻撃が散発。
・中国とインドが国境地帯の係争地で衝突しインド兵20人死亡(6月15日)。対立は長期化の様相。
・米国の対イラン制裁強化とイランの反発(イランは核合意から離脱してウラン濃縮20%に引き上げを
目指す)
・リビア内戦を巡ってロシアとトルコが介入を強めている。ロシアはリビア国民軍(LNA)をトルコは
暫定政権をそれぞれ支援。国連の仲介で両内戦当事者は8月21日、停戦に合意し小康状態を保つ。
・カシミールでインドとパキスタンの両軍が過去1年で最大となる砲撃戦を繰り広げ、双方で13人以上
死亡(11月13日)。緊張状態が続く。
(4)2020年のその他の世界情勢の特記事項として
A) 米国大統領選挙が11月3日、実施され、民主党のバイデン氏が共和党のトランプ現大統領を押さえて
勝利した。投票率(暫定)は66.7%。得票数はバイデン氏が約81百万票、トランプ氏が74百万票。
トランプ氏とその支持者は「不正選挙が行われた」と(根拠無く)主張しており、波乱が続く。
B) 香港では2019年3月から民主化を求めるデモが続き、これに対して、政府に反対する人たちを取り
締まるための香港国家安全維持法(国安法)が2020年6月30日、施行された。香港で自由な発言が
できなくなり、中国本土とは違う社会の仕組みを認めた「一国二制度」が中身のない形だけのものに
なった。香港政府を転覆しようとしたとの容疑で、民主活動家や政治家の逮捕が相次ぐ。
C) ベラルーシで8月9日、大統領選挙が行われ現職のルカシェンコ氏(欧州最後の独裁者とも呼ばれ
る)が80%を得票して6選を決めた。これに対し、反政権側は投票に不正があったとして選挙結果
の受け入れを拒否。抗議活動が全国に広がっている。
D) モーリシャス沖で日本の貨物船「わかしお」が7月25日、水深を誤りサンゴ礁に座礁して、石油流出
により生態系を破壊。
E) オーストラリアのモリソン首相が4月23日、記者会見で新型コロナの発生源に関して「独立した調査
が必要だ」と強調したことに中国が反発し、豪中関係が悪化。
F) 2020年は世界各地で抗議デモや暴動が相次いだ。2020年5月に米ミネソタ州ミネアポリスで、黒人
のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧迫されて死亡した事件をきっかけに、「Black
Lives Matter」(BLM)の抗議運動が全米に広がった。タイでは、2020年7月から学生や若者を中
心に民主化を求めるデモが続く。軍事政権を率いるプラユット首相の辞任や憲法改正、更に「王室
改革」を求める大規模デモに発展。インドでは、農産物の取引自由化を柱とした農業新法が施行さ
れたことに農民が反対して、同法の撤回を求める大規模デモが9月から全土で巻き起こっている。
チリの首都サンチアゴで地下鉄料金の値上げをきっかけに10月18日、大規模な反政府デモが起き暴
徒化した(昨年10月18日にも地下鉄料金の値上げで暴動発生)。中央アジアのキルギスで、10月5
日、議会選挙の結果に抗議する野党支持者らの大規模デモが発生し、大統領府等を占拠。拘束され
ていた前大統領(野党)を解放した。
(5)窃盗、強盗等一般犯罪
外務省の2019年海外邦人援護統計によれば、2019年に日本人が海外で犯罪被害に遭った件数は4,823件で、内訳は窃盗4,039件(全体比84%)、詐欺320件(8%)、強盗・強奪215件(4%)、傷害・暴行69件(1%)、脅迫・恐喝61件(1%)等となっている。 海外で日本人が犯罪被害に遭うケースは少なくないが、近年の日本人の犯罪被害推移をみると、2017年4,531件、2018年4,768件、2019年4,823件と増加傾向にある。しかし、2020年は新型コロナの影響で世界的に海外渡航が規制されたので、犯罪被害も少ないことが予想される。
(6)交通事故
海外で交通事故に遭って死傷される邦人は少なくない。企業・団体の安全担当者は、社員に対して交通安全についての継続的、効果的な注意喚起(注)を行い、事故発生時の対処要領を心得ておくことが必要である。
(注)交通安全の3原則の遵守:①法定速度内で走行、②後部座席もシートベルト着用、③飲酒運転の禁止
外務省の海外邦人援護統計によれば、近年の交通機関事故による死傷者は、2017年:死亡21人、負傷43人、2018年:死亡20人、負傷70人、2019年:死亡8人、負傷82人。
外務省統計では、2019年の主な交通事故として下記が上げられている。
2月:米国・オハイオ州において、自動車運転中の交通事故により、邦人1人が死亡。
4月:タイ・バンコクにおいて、歩行中の交通事故により、邦人1人が死亡。
9月:アラブ首長国連邦・ドバイにおいて、歩行中の交通事故により、邦人1人が死亡。
9月:オーストラリア・クイーンズランド州において、自動車運転中の交通事故により、邦人1人が死
亡。
10月:南アフリカ・ムブマランガ州において、自動車乗車中の交通事故により、邦人1人が死亡。
11月:台湾・台中市において、電車との接触により、邦人1人が死亡。
12月:米国・アラバマ州において、自動車乗車中の交通事故により、邦人1人が死亡。
(7) 健康管理
①海外で流行中の重大感染症(2020年)は、新型コロナ以外では、特記事項として、フィリピンで
HIV・エイズ感染者が増加(2020年700人以上)、シンガポールでデング熱患者が3万人以上(過去
20年で最大規模)。
②インドでは毎年秋~冬にかけ、深刻な大気汚染が発生する。デリーにおける最近の大気汚染状況は、
在インド米国大使館が測定しているPM2.5の観測結果では2020年10月下旬以降、連日のように6段階
で最悪の「有害」を記録した。大気汚染は地域によって状況が異なるので、渡航・滞在先の汚染状況
を確認し、健康上必要な予防措置(不要不急の外出を控える、外出時はマスク着用、室内では空気清
浄機等を使用)を心掛ける。
【Ⅱ】2021年の展望
(1)企業・団体のこれからのコロナ対策
①コロナ対策にはワクチン接種や治療薬の開発が必須であり、それまで医療崩壊が起きないよう感染者
の増加を抑える必要がある <マスク着用、手洗い、3密回避、換気+会食時は十分注意> 2021年
もみんなで協力することが大切。
②感染防止と経済回復を図るため、政府、自治体の感染予防対策はタイムリーに、且つきめ細かくなる
ので、指示、要請内容を把握してできるかぎり守る。
・コロナ・ワクチンの接種開始は、日本では来春になろうか、厚労省の発表待ち。
③(感染抑止ができれば) 国内行動制限が緩和され、来社する取引先や顧客との面談機会が増える
・取引先や顧客の安全を守る気配り、オフィス内感染防止(歩行の導線等)の徹底
・取引先や顧客との対面での接触や大声の会話は避ける
・必要に応じてPCR検査を受ける
④(感染抑止ができれば) 出入国制限の緩和により駐在員や出張者の海外渡航や海外からの外国人客
先の増大
・海外渡航に当たっては、産業医等による検診を受ける
・海外駐在員・家族が新型コロナの重症患者になった場合の対応(現地医療機関の確認等)
・海外出張者の行動把握
・海外からの外国人客先の行動把握
⑤自社クラスター防止対策の(随時)点検と他社クラスター発生例を参考にする。
・産業医、顧問医等に相談
(2)米国バイデン次期政権の取組み
①バイデン次期大統領は、これまでに自由と民主主義を擁護、法の支配を重視、同盟国との関係強化と
多国間協調を外交の柱に置く等と発言し、(トランプ政権と異なり)外交の予測可能性は高まる。
②温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への再加入、WHO(世界保健機関)への復帰手続きを行うと
発言。但し、新政権はコロナ対策や製造業の国内回帰など自国再建を最優先とし、バイアメリカンを
打ち出し、自国の雇用・産業を保護する政策をとると見込まれるので、具体的実施には調整も必要と
なろう。
③バイデン政権でも対中強硬姿勢は変わらず、人権問題では対立が深まる。中国やロシア等の強権国家
に対抗するため、欧州や日本等の同盟国と協調する機会が増えよう。
④中東外交ではイラン核合意への復帰と経済制裁緩和が当面の重大課題となる。また、バイデン次期大
統領はNATO加盟国でロシア製の地対空ミサイルシステムS-400を導入したトルコに対して厳しい対
応をとることが予想される。イスラエルとパレスチナの関係修復、イエメン戦争の和平仲介等に取
り組むであろう。
(3)テロ・誘拐の動向
①イスラム過激派の活動がコロナ禍に乗じて再び活性化する可能性が高い
・一時は弱体化したIS(イスラム国)が、2020年春頃よりシリア、イラクでゲリラ的戦闘を行ってお
り、2021年も攻勢が続く見込み。
・過激派グループはアフリカや南西アジア、東南アジアでも伸長している。SNS(交流サイト)を通じ
て新型コロナを「神の罰」などとする主張を繰り返し、過激思想を持つ、或いは生活苦に喘ぐ若
者らに組織への加入を呼びかける。
主な過激派組織として、ボコ・ハラム(ナイジェリア)、アルシャバブ(ソマリア)、IS中部アフ
リカ州(モザンビーク)、タリバン(アフガニスタン、パキスタン)、ジェマ・イスラミア(東南
アジア)等。
・欧米諸国を中心に、過激思想に染まってテロを行うホームグロウン型(自国育ち)やローンウルフ
型(一匹狼)のテロも散発。
②欧州、北米、オセアニアでは極右テロが目立ち増大が予想される。ドイツでは。移民系の市民やユダ
ヤ人、政治家が標的となった事件が続発。2020年2月、ドイツ西部ハーナウでトルコ系移民ら9人が
人種差別主義者の男に射殺された。米国ではFBIが2019年以降、極右グループ、単独行動者、ミリシ
アを国内最大級のテロの脅威と見なしている。2020年10月には、ミシガン州知事の誘拐と州議会襲
撃計画の容疑で極右グループの13人が逮捕された。
(4)その他の世界情勢
・紛争国・地域では問題解決への道のりが遠い、2021年も苦境が続く可能性が高い(アフガニスタ
ン、イラク、シリア、パレスチナ、イエメン、リビア、ソマリア、ウクライナ、ナゴルノ・カラバフ
等)
・トルコは強硬路線で各種問題を抱える:ロシア製ミサイルシステムS-400の導入で米国の制裁。東地
中海でエネルギー資源確保のためにギリシャ、キプロス、フランス等と対立。リビア、シリア、ナゴ
ルノ・カラバフ等ではロシア、フランス等との関係悪化。経済の落ち込み(通貨安、経常赤字等)。
・コロナ禍と原油価格安が中東産油国やロシア等の政治、経済におよぼす影響が大きい。
・メルケル独首相の引退と後任の行方:キリスト教民主同盟(CDU)の党大会(1月15日―16日)で後
任が決まる予定。選挙結果は、EUの今後を占うことにもなる。
・中南米では米バイデン次期政権の新たな中南米政策に注目。2021年は選挙の年でもあり、混乱が予
想される:エクアドル総選挙(2月7日)、ペルー総選挙(4月11日)、メキシコ中間選挙(6月6日)、アル
ゼンチン中間選挙(10月24日)、ニカラグア総選挙(11月7日)等。
【Ⅲ】NPO法人海外安全・危機管理の会(OSCMA)の活動
①当会は、2019年4月より、菅原 出(国際政治アナリスト)が代表理事に就任し、「人を育て社会に
貢献する危機管理の総合シンクタンク」として、3つの事業に取り組んでいる
②新生OSCMAの3つの事業は、外交・安全保障プロジェクト、海外安全・危機管理プロジェクト、災
害危機管理サバイバル教育プロジェクトで、20年1月~12月の主な活動は以下の通り。
1)外交・安全保障プロジェクト
・外交・安全保障月例セミナーの開催
・OSCMA危機管理人材育成講座の開催(4月~12月間に9回)
・外交・安全保障サマーセミナーの開催(9月)
2)海外安全・危機管理プロジェクト
・OSCMA危機管理情報のデイリー配信
・海外における安全対策、危機管理対策についてさまざまな講演
3)災害危機管理サバイバル教育プロジェクト
・72時間サバイバルコーチ養成講座(72時間サバイバル教育協会との共催で11月に実施)
2021年も3つのプロジェクトの充実した活動に取り組みます。引き続き、当会のNPO活動へのご理
解、ご指導、ご支援の程宜しくお願いいたします。
(備考) 2020年日本人・日本企業に関連した主な事件・事故・災害等
・2019年12月8日 中国・武漢で原因不明の肺炎患者が初めて報告される
・1月3日 イランのイスラム革命防衛隊コッズ部隊のソレイマニ司令官を米軍がイラク・バグダッド
で殺害
・1月9日 中国国営中央テレビ(CCTV)が肺炎患者から新型コロナウイルスが検出されたと報道
・1月20日 中国の鐘南山国家衛生健康委員会専門家グループ長がヒトーヒト感染を発表
・1月20日 習近平国家主席が「断固として、ウイルスの蔓延を抑え込む」の重要指示を出す
・1月23日 武漢の交通機関の運行が全て停止(武漢封鎖)
・1月29日 日本政府が邦人帰国のため中国・湖北省に民間チャーター機を派遣
・1月30日 WHO(世界保健機構)が緊急事態宣言
・2月5日 横浜港に停泊したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」で集団感染が判明
・2月19日 ドイツ中部ヘッセン州で「水たばこ」を提供する2つの店を外国人敵視思想の右翼ドイツ人
が襲撃(9人死亡)
・4月18日 カナダ東部ノバスコシア州で警官を装った男による銃乱射(23人死亡)
・5月25日 米国・ミネソタ州のミネアポリスで黒人のジョージ・フロイドさんが白人警察官に首を圧
迫されて死亡。「Black Lives Matter (BLM)」運動が広がる
・6月15日 中国とインドが国境地帯の係争地で衝突(インド兵20人死亡)
・6月20日 英国・ロンドン西方レディングの公園で、リビア人の男が刃物を使って襲撃(3人死亡、3
人負傷)
・6月29日 パキスタン・カラチのパキスタン株式取引所入口でバロチスタン解放軍(BLA)による爆
弾テロ(3人死亡,3人負傷)
・6月30日 香港に香港国家安全維持法が施行され、民主派の取り締まり強化
・7月25日 モーリシャス沖で日本の貨物船「わかしお」が水深を誤りサンゴ礁に座礁
・8月4日 レバノン・ベイルート港で爆発事故(203人死亡、6,500人以上負傷)
・8月9日 ニジェール・ニアメー南東のキリン保護区で、武装集団がフランス人のNGO職員6人、地
元ガイドら計8人を殺害
・8月9日 ベラルーシで大統領選挙、ルカシェンコ現大統領が6選(但し、不正選挙の抗議デモが続
発)
・8月12日 モザンビーク北部モシンボアダプライアの主要港をイスラム過激派が占拠
・8月21日 リビアで暫定政権とリビア国民軍(LNA)が停戦に合意
・8月24日 フィリピン南部のホロ島で、2度の自爆テロ(16人死亡、75人負傷)
・9月 タイで学生、若者らによる大規模デモが続発(内閣退陣、憲法改正、王室改革を主張)
・9月6日 チュニジア南部のスースで4人組のテロリストが国家警備隊員3人を襲撃(1人死亡、1人
負傷)
・9月15日 UAE、バーレンがイスラエルと国交正常化
・9月25日 フランス・パリのシャルリー・エブド元本社前でパキスタン出身の男が居合わせた男女2
人を刺傷
・9月27日 ナゴルノ・カラバフ戦争が勃発(プーチン大統領の仲介で11月10日、完全停戦)
・9月 インドで農業新法が施行されることに反対する農民のデモが各地で続発
・10月5日 キルギスで議会選挙の結果に抗議する野党支持者らの大規模デモが発生
・10月16日 フランス・パリ北西の郊外で中学校教員がチェチェン系の男に路上で刺殺
・10月18日 チリ・サンチアゴで地下鉄料金の値上げに反対するデモが暴徒化
・10月29日 フランス・ニースでチュニジア人の男が教会を襲撃(3人死亡)
・11月2日 オーストリア・ウィーン中心部の6カ所で北マケドニア出身の男による銃撃(4人死亡、17
人負傷)
・11月13日 カシミールでインドとパキスタンの両軍が砲撃戦(双方で13人死亡)
・11月27日 イラン・テヘラン郊外でイラン核開発の著名な科学者ファクリザデ氏が暗殺される
・12月8日 イギリスでファイザー・ワクチンの接種が始まる
・12月24日 英国とEUは英国の完全離脱(2021年1月以降)に合意
以上
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。