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海外安全・危機管理 ― 2023年の回顧と展望

2024年01月04日

                               NPO法人海外安全・危機管理の会
                                   専務理事 長谷川善郎

2023年は、ロシアによるウクライナ侵攻が2年目に入り戦況は膠着状態に陥り、イスラエル・パレスチナでの紛争勃発、ミャンマーやスーダンでの戦火拡大、アフリカ諸国での軍事クーデター、台湾有事問題、北朝鮮の大量ミサイル発射と軍事偵察衛星打ち上げ、米国や欧州を中心に高インフレと金融政策の引き締めなどにより、国際社会は厳しい対応を迫られました。
一方、世界的な新型コロナ危機は、WHOが5月に「緊急事態宣言」の終了を発表し、約3年3カ月で「平静」に戻り、経済活動は正常化が進みました。
24年は前年からの紛争継続に加え、さらに世界情勢に大きな影響を与える国や地域で選挙が相次ぎ、一層緊張と緊迫の1年を迎えそうです。

 
【Ⅰ】2023年の回顧
 
(1)ロシアのウクライナ侵攻
 
ロシアのプーチン大統領が 2022年2月24日、ウクライナに対する「特別軍事作戦」を行うと宣言。ウクライナとNATOの接近阻止やロシア系住民の保護などを掲げて全面侵攻した。当初はロシア軍がゼレンスキー政権の転覆を狙い、ウクライナの首都キーウ周辺まで迫ったが、欧米に支援されたウクライナ軍の反撃を受け、各戦線では次々と敗退する結果となった。その後ロシア軍は軍備を整え、戦局は2023年に入って膠着状態となっているが、双方に停戦を模索する動きはなく、未だ出口の見えない状況が続いている。
23年6月4日に反転攻勢をはじめたウクライナ軍であるが、ロシア軍が一方的に併合を宣言した東部、南部の占領地の奪還は限定的なものに止まっている。こうした状況に対し、ウクライナを支援し続けてきた欧米各国からは「支援疲れ」の声が上がりはじめた。
中でもアメリカでは、23年内にもウクライナ支援の予算が枯渇するとされ、バイデン政権は議会に追加予算の承認を求めていますが、野党・共和党の一部が譲らず、23年内の可決は不可能となりました。こうした状況に対し、12月、アメリカ訪問中のゼレンスキー大統領が共和党の指導部に直談判しましたが、慎重な姿勢を覆すことはできなかった。
一方、ロシアではプーチン大統領が24年3月に行われる大統領選への出馬を表明。大統領選で成果をアピールするため、ウクライナでの攻勢を加速するのではという指摘もあり、ウクライナをめぐる戦況は余談を許しません。

(2023年の経過)
・1月6日 米がウクライナへ37.5億ドル超、追加の軍事支援発表。過去最大規模
・1月11日 ロシアは、ウクライナ侵攻の総司令官にゲラシモフ参謀総長を任命
・1月14日 英国は主力戦車「チャレンジャー2」14台をウクライナに提供すると発表
・1月25日 ドイは主力戦車「レオパルト2」14台をウクライナに提供すると発表
・1月25日 米国は主力戦車「エイブラムス」31台をウクライナに提供すると発表
・1月26日 米財務省はロシアの民間軍事会社「ワグネル」を「重要な国際犯罪組織」に指定
・2月3日 欧米各国はロシア産石油製品の上限価格を設定
・2月8日 ゼレンスキー大統領、英議会で演説 侵攻初日からの支援に感謝
・2月15日 EUが1.5兆円超える対ロ追加制裁案を公表 イランの関連団体も対象に
・2月20日 バイデン米大統領がキーウを訪問しゼレンスキー大統領と会談
・2月23日 ウクライナ軍参謀本部の幹部はロシア軍が昨年2月の全面侵攻から1年間で、ウクライナに
      対し、5千回近くのミサイル攻撃、3500回の空爆及び1千回近いドローン攻撃があったと
      述べる
・2月24日 ロシア軍の侵攻2年目を迎え、ゼレンスキー大統領がビデオ演説で「実りのため、あらゆる
      ことしなければ」と述べる
・3月17日 ICC(国際刑事裁判所)は、ロシアが昨年2月以降に占領したウクライナの地域から子ども
      を含む住民をロシアに連行した行為に責任があるとして、プーチン氏に対する逮捕状を出し
      た
・3月30日 フィンランドのNATO加盟が決定
・4月18日 中ロ国防相がモスクワで会談 軍事協力の拡大を協議
・4月19日 米国製の地対空ミサイル「パトリオット」がウクライナに到着
・4月22日 ウクライナ軍、ドニプロ川東岸に拠点設置した模様
・4月26日 習近平国家主席とゼレンスキー大統領が初の電話協議を行った
・4月29日 クリミア半島のセバストポリにある石油貯蔵施設で大規模火災発生
・5月3日 モスクワのクレムリン上空でドローン爆発
・5月9日 ブリンケン米国務長官は英国のクレバリー外相との会談後の共同記者会見で、ウクライナが
      領土奪還に必要なものが整ったと述べた
・5月11日 英国がウクライナに長距離射程の巡航ミサイル「ストーム・シャドー」を引き渡す
・5月20日 ゼレンスキー大統領、広島に到着 G7に出席
・5月21日 ロシア国防省は、バフムートを掌握したと発表
・5月21日 バイデン大統領はゼレンスキー大統領にF16戦闘機のための訓練を支援することを表明
・6月4日 ウクライナ軍の反転攻勢が始まる
・6月6日 ロシア軍がウクライナ南部ヘルソン州のカホウカ水力発電所ダムを爆破、大洪水となる
・6月7日 中ロの戦略爆撃機が日本海上空などで共同パトロール実施
・6月21日 EU加盟各国、対ロシア追加制裁案で合意(11回目)。「制裁逃れ」防止措置などを図る
・6月21日 反転攻勢「望むより遅い」 ゼレンスキー氏がインタビューで認める
・6月23日 ロシアの大統領報道官は、日本との関係について、「可能な限り最低のレベル」と報道陣に
      話す
・6月23日 ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、21~22日にロンドンで開かれた「ウクライナ復興会
      議」について、「力強いイベントであり、我が国にとって実利のあるものだ」と総括した
・6月23日 ワグネル創始者のプリゴジン氏が武装蜂起を宣言、モスクワ近郊に軍を進める 
・6月24日 プー ン大統領が緊急演説 ワグネルの武装蜂起は「裏切りだ」と話した
・7月7日 米国がウクライナにクラスター弾提供を発表
・7月17日 クリミア橋爆発事件 ウクライナの無人艇の攻撃による
・7月17日 ロシアが黒海を通じたウクライナからの穀物輸出合意の停止を通知
・7月19日 クリミアの弾薬庫がミサイル攻撃で爆発 住民2000人が避難
・7月19日 ロシア軍によるオデーサ港の穀物ターミナル攻撃、被害は「6万トン」
・7月20日 ロシアと中国が日本海で合同軍事演習開始
・7月24日 モスクワ中心部へのドローン攻撃、ロシア国防省近くの場所にも
・7月25日 ショイグ露国防相が北朝鮮を訪問
・7月26日 ウクライナ軍がザポリージャ州のロボティネでロシのア第一次防衛線を突破
・8月6日 ウクライナ軍、クリミア半島と南部ヘルソン州を繋ぐチョンハル橋を破壊
・8月8日 ウクライナ軍、ドニプロ川を渡河か 米戦争研究所
・8月16日 ロシア、イラン製ドローンをもとに国産化か 英国防省分析
・8月18日 バイデン米大統領はロシアによるウクライナ侵攻への日本の対応について、「G7を通じて
      強いリーダーシップを示し、財政・人道的支援や非軍事的な装備の提供で大きく貢献した」
      と語った
・8月23日 プリゴジン氏が搭乗のビジネスジェット機がモスクワ北西部で墜落 暗殺された可能性
・9月1日 ロシア司法省、ノーベル平和賞受賞のリベラル紙ドミトリー・ムラトフ編集長を「スパイ」
     指定
・9月3日 汚職容疑でレズニコフ国防相を解任 ゼレンスキー大統領が表明
・9月9日 占領地に駐留のロシア軍は42万人以上とウクライナ国防省が発表
・9月13日 プーチン大統領は北朝鮮の金正恩総書記とロシア極東アムール州のボストーチヌイ宇宙基地
      で会談
・9月19日 ゼレンスキー大統領が国連総会に出席して、演説で「団結は戦争を防ぐ」と述べる
・9月21日 ゼレンスキー大統領、ホワイトハウスでバイデン大統領と会談。バイデン氏は長距離地対地
      ミサイル「ATACMS」を供与する意向を伝えた
・9月22日 ウクライナ軍がセバストポリの黒海艦隊司令部をミサイル攻撃、幹部約34人死亡
・10月12日 チェチェンのカディロフ首長は腎臓の病から回復した
・10月10日 ロシア軍がウクライナのアウジーイウカで大規模攻撃を開始
・10月26日 スロバキア新首相、ウクライナへの武器供与停止を表明
・11月1日 北朝鮮、ロシアに砲弾100万発以上を提供
・11月1日 ウクライナ軍のザルジニー総司令官が英紙エコノミストへの寄稿で、戦局膠着でロシア軍
      に再建の時間与える恐れと危機感を述べる
・11月2日 ウクライナ軍、南部ドニプロ川の東岸で陣地拡大
・11月4日 ゼレンスキー大統領はEUのフォンデアライエン欧州委員長との共同記者会見で、汚職防止
      対策の強化を進めると述べた
・11月19日 イエメンの武装組織フーシ―派が紅海で日本郵船の自動車運搬船を拿捕
・12月2日 ザポリージャ原発、一時停電で危険な状態に
・12月7日 ロシア大統領選来年3月17日に決定
・12月12日 バイデン大統領とゼレンスキー大統領が、ワシントンで会談
・12月14日 EUは首脳会議で、ウクライナの加盟交渉の開始について合意した
・12月25日 ロシアのArctic LNG2開発事業、外資(含む日本)が「参画停止」通告 
・12月26日 ウクライナ軍のザルジニー総司令官が初の記者会見で、東部の拠点マリンカからの撤退を
      認める
・12月26日 ウクライナ軍、ロシアの大型揚陸艦「ノボチェルカスク」を巡航ミサイルで破壊と発表
      74人以上死亡
・12月29日 ロシアがウクライナ各地に「最大規模の航空攻撃」31人死亡、132人負傷
 
(2)イスラエル・パレスチナ紛争
 
イスラエルとパレスチナの緊張が高まる中、ガザ地区を実効支配するイスラム原理組織ハマスは10月7日(土)朝、イスラエルに対して3000発以上のロケット弾を発射。約1600人のハマス戦闘員らが7つの検問所を突破し、また海と空(パラグライダー利用)からもイスラエル国内に侵入した。イスラエル側で1300人以上死亡(うち、音楽祭会場で250人以上)。イスラエルから150人(うち、外国人50人以上)が人質として連れ去られた。イスラエルはハマスに対して宣戦布告。イスラエル軍は陸・空・海からガザへ大規模侵攻して、(徹底抗戦)のハマスと戦闘状態が続いており、犠牲となったガザの一般市民の死者は2万人以上(23年末現在)に及ぶ。イランが支援するレバノンのヒズボラやイエメンのフーシ―派の武装組織もイスラエルを狙った攻撃をしており、中東域内に紛争拡大の懸念が高まる。

(これまでの経緯)
・1948年 イスラエル建国、第一次中東戦争
・1973年 第4次中東戦争
・1993年 イスラエル政府とパレスチナ解放機構(PLO)がオスロ合意を結ぶ
・1995年 イスラエルのラビン首相暗殺
・2000年 第2次インティファーダ(対イスラエル民衆蜂起)
・2002年 イスラエルが分離壁の建設を開始
・2005年 イスラエルがガザから撤退。その後、封鎖政策を実施
・2014年 米国仲裁の和平交渉が頓挫。イスラエル軍がガザを攻撃
・2020年 米国仲介でイスラエルがUAE、バーレンなどアラブ諸国との国交正常化
・2021年 イスラエルとハマスの大規模軍事衝突、11日間で270人以上死亡
・2022年 イスラエルで史上最右翼とされるネタニヤフ政権発足
・2023年 対立してきたサウジアラビアとイランが中国の仲介で外交関係を正常化
・2023年10月7日 ハマスがイスラエルを大規模攻撃。日本人駐在員はイスラエルから退避 
・10月8日 7日夜からイスラエル軍はガザを空爆開始
・10月9日 イスラエルはハマスに対して宣戦布告。イスラエル軍は30万人の予備役招集
      (イスラエル正規軍16万9500人)、ハマス戦闘員は2万~2万5000人
・10月14日 韓国の救援機で日本人51人もイスラエルから退避
・10月14日 日本政府の救援チャーター機で日本人8人もイスラエルから退避
・10月25日 イスラエル軍がガザ地区北部に侵攻
・11月1日 外国人300人以上(日本人10人と家族8人を含む)と一部の重傷者がガザのラファ検問所
      から初めてエジプトに脱出 
・11月2日 自衛隊機で日本人20人を含む46人がイスラエルから退避
・11月24日 イスラエルとハマスは4日間の戦闘休止で合意(人質解放)、2日間延長
・12月5日 イスラエル軍ガザ南部に侵攻
・12月26日 イスラエル軍ガザ中部に侵攻
 
(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行状況
 
2019年12月に中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症は世界に広まる兆候を見せたため、世界保健機関(WHO)は2020年1月30日に緊急事態宣言を発令した。
20年、21年、22年と流行が続き、企業・団体は安全対策に忙殺されました。23年に入ってようやく流行にも落ち着きが見られ、5月5日にWHOは緊急事態宣言の終了を発表。ただし、新型ウイルスは依然として大きな脅威だと警告。今後は、各国が最善と考える方法で新型ウイルスに対処していくことになり、日本政府は5月8日から新型コロナを「5類感染症」に位置付けた。
2023年6月1日のWHO報告(2023年5月28日時点)によれば, 累計患者数は767,342,575人, 累計死亡者数6,938,207人に上った。

<2023年1月~3月>                    (赤字は日本関係)
・1月3日 中国で70代日本人男性がコロナ感染 入院後に死亡
・1月5日 インフルエンザ 全国的な流行期に コロナと同時流行懸念
・1月8日 新型コロナ 専門家 “実際にはすでに過去最大の感染状況か”
・1月8日 中国 「ゼロコロナ」政策終了 (入国後の隔離などの措置を撤廃)
・1月11日 新型コロナ 高齢者施設クラスターなど第7波のピーク前後の水準
・1月12日 オミクロン株「XBB.1.5」 米では感染力が強い傾向 WHO初期調査
・1月14日 中国 新型コロナによる死者 約6万人と発表(先月8日~今月12日間)
・1月15日 コロナ国内初確認から3年、都内の高齢者施設 第8波で厳しさ続く
・1月18日 去年の外国人旅行者 前年の15倍以上も、感染拡大前の約12%
・1月20日 新型コロナ 原則今春に「5類」移行検討 岸田首相が指示
・1月21日 オミクロン株「XBB.1.5」 “コロナ感染者の約半数” 米CDC推計
・1月22日 中国 新型コロナ 専門家「人口の約80%感染」11億人余り感染か
・1月23日 オミクロン株対応ワクチン 国内接種率40.1%(23日公表)
・1月24日 新型コロナ 感染後の子どもに相次ぐ「MIS-C(ミスシー:小児多系統炎症性症候群)」
・1月26日 中国 新型コロナ感染者 “ピーク時 1日あたり約700万人”
・1月27日 新型コロナ 「5類」への移行 5月8日に 政府が方針決定
・1月28日 中国 コロナ死者 1週間で6300人余 12月上旬から計8万人近くに
・1月30日 新型コロナ 世界の死者は3年間で680万人以上に 警戒と緩和の模索続く
・1月31日 米 バイデン政権 新型コロナ国家非常事態を 5月11日に解除へ
・2月2日 東京都 コロナ 医療提供警戒レベル 最も深刻から1段引き下げ
・2月6日 中国 国外への団体旅行を一部解禁 中国各地の空港にツアー客
・2月9日 コロナ感染示す抗体 東京や大阪で約3割の人に 大幅に増加
・2月13日 オミクロン株対応ワクチン 国内接種率42.9% (13日公表)
・2月14日 東京都 マスク着用 ラッシュの電車やバスに乗る場合は推奨へ
・2月15日 1月の訪日外国人旅行者149万人 前月比12万人増 水際対策緩和で
・2月27日 中国対象のコロナ水際措置 3月1日から緩和 入国時検査を限定へ
・2月28日 オミクロン株対応ワクチン 5歳~11歳も対象 3月上旬から接種へ
・3月1日 香港 マスク着用義務を撤廃 コロナ対策の規制すべてなくなる
・3月1日 新型コロナ発生源 “中国の研究所から流出可能性高い”FBI長官
・3月2日 外国クルーズ船 東京のターミナルに 3年前の開業以来初入港
・3月13日 マスク着用 きょうから個人の判断に

<2023年4月~6月>
・4月1日 学校でのマスク着用 4月1日から原則不要 感染対策の考え方変更
・4月3日 中国対象のコロナ水際措置 5日から緩和 陰性証明の提出求めず
・4月14日 コロナ5類移行後の療養期間 “発症翌日から5日間推奨” 厚労省
・4月21日 国際クルーズ船 茨城港に寄港 新型コロナ感染拡大以降初
・4月29日 新型コロナの水際対策 きょうからワクチン証明など提出不要に
・4月29日 中国 新型コロナ 入国者に求めるPCR検査 抗原検査に切り替え
・5月1日 アメリカ 入国時のワクチン接種証明 5月11日から不要に
・5月5日 WHO 新型コロナ「緊急事態宣言」終了を発表
・5月11日 コロナ感染状況落ち着いたアメリカ 国家非常事態宣言解除
・5月25日 中国 北京市当局“新型コロナ感染者増加傾向”対策呼びかけ
・5月31日 「国立健康危機管理研究機構」創設 参院本会議で可決・成立
・6月26日 新型コロナ「第9波が始まっている可能性」政府分科会で尾身会長発言

(ひとまず終了)

 
(4)テロ・誘拐
 
中東や南西アジア、アフリカでのテロ事件が相変わらず多い。イスラム国(IS)が徐々に台頭する兆しがある。2023年は日本人が標的となる、或いは犠牲となるテロ事件や誘拐は起きなかったが、イスラエル・パレスチナ紛争を受け、イスラム過激派組織がユダヤ人に対する「ジハード(聖戦)」を呼びかけている。組織的なテロだけでなく、こうした呼びかけに賛同した「ローンウルフ(単独犯)」型の事件が起きる可能性もあり、各国が警戒を強めている。

・1月11日 アフガニスタン・カブールの外務省周りで自爆テロ、少なくとも20人死亡、40人以上負
      傷。ISが犯行声明
・1月30日 パキスタン・ペシャワールのモスクで爆破テロ、100人以上死亡。パキスタン・ターリバ
      ン運動(TTP)分派の「ジャマートゥル・アフラル」が犯行声明
・2月7日 パプアで分離主義者の戦闘員がニュージーランド人のパイロットを人質にとる
・2月12日 米軍、ソマリアで過激派アルシャバブの戦闘員12人を殺害
・3月6日 パキスタン・バルチスタン州で、警官を移送していたトラックが自爆攻撃を受け、警官9人
      死亡、16人負傷
・4月6日 ブルキナファソで武装集団が相次ぐ村襲撃、44人死亡
・6月16日 ウガンダでIS系イスラム過激派が学校襲撃 生徒ら約40人死亡
・7月7日 米中央軍、シリアでISIS(イラク・シリア・イスラム国)のムハジール指導者を殺害
・7月30日 パキスタン北西部で宗教政党の集会で自爆テロ 44人死亡
・8月3日 ISが4代目指導者フセイニ・クラシの死亡を発表
・10月1日 トルコ・アンカラの内務省前で自爆テロ、警察官2名負傷
・10月13日 フランス北部アラスで学校に刃物を持った男が侵入、高校教師1人殺害、2人重傷。テロ
       警戒レベルが最高に引き上げられる
・11月9日 コロンビアで誘拐されたリバプールFWディアスの父、12日振りに無事解放
・12月12日 パキスタン北西部の軍施設をTTPが襲撃、、兵士23人死亡、31人負傷。今年最大の犠牲
       者
 
(5)世界重大リスク
 
・1月4日 中国軍が台湾周辺で無人機を本格運用、昨年9月の防空識別圏への初侵入から延べ70機
・1月15日 ネパールで国内線旅客機が墜落、72人全員死亡
・1月16日 インドネシア・スラウェシ島の中国資本のニッケル製錬所で暴動、従業員2人死亡
・1月21日 スウェーデン・ストックホルムのトルコ大使館近くで極右団体がコーランを燃やしトルコ
      が抗議
・2月4日 米本土飛行の中国気球を戦闘機が撃墜し中国が反発
・2月6日 トルコ・シリア地震、M7.5。両国で死者5.6万人以上
・2月13日 中国艦船が南シナ海でフィリピン巡視船にレーザー照射 
・3月7日 アヒルカレンダーでタイ王室侮辱、不敬罪で男性に禁錮2年
・3月21日 ケニアで反政府デモ 警察が実弾発射、1人死亡
・3月19日 中央アフリカの金鉱山を反政府勢力が襲撃、中国人9人死亡 
・3月24日 中国、米信用調査会社の中国人社員5人を拘束
・3月26日 中国・北京でアステラス製薬の社員が拘束される
・4月8日 イラン女子学生狙いの毒物事件が各地の学校で続発
・4月25日 戦闘が続くスーダンから日本人ら45人が、自衛隊の輸送機でジブチへ退避
・7月1日 中国が「改正反スパイ法」を施行
・7月26日 ニジェールで軍事クーデター発生
・8月8日 ハワイ・マウイ島で山火事発生、甚大な被害を及ぼす
・8月14日 カンボジア拠点特殊詐欺グループの日本人7人が現地で拘束
・8月24日 中国が日本産水産物の輸入全面停止
・8月30日 ガボンで軍事クーデター発生
・9月8日 モロッコでM6.8地震、死者3000人
・9月10日 リビアで大洪水 死者4000人以上
・9月19日 スウェーデンでギャング犯罪激増しクリステション首相が軍司令官に支援要請
・9月24日 バングラデシュでデング熱大流行、死者900人超 過去最悪
・10月7日 アフガニスタンでM6.3の地震 死者1000人以上
・10月22日 中国当局が今年3月に日本商社の中国人社員を拘束したことが分かる
・10月23日 ブラジル・リオデジャネイロで犯罪組織が路線バス35台に放火 警察捜査への報復
・10月27日 ミャンマー少数民族武装勢力(3勢力)が「1027作戦」と呼ぶ国軍に対する大規模攻撃
       を開始
・10月29日 イランでヒジャブ未着用の少女が死亡、風紀警察が暴行か 
・11月9日 インド 首都で大気汚染 最も深刻なレベルに
・11月21日 北朝鮮が軍事偵察衛星打ち上げに成功
 
 
【Ⅱ】2024年の展望
 
(1)ロシアのウクライナ侵攻
 
2024年はウクライナでの戦いが3年目に入るが、ここ数カ月、前線は殆ど動いていない。23年6月に始まったウクライナ軍の反転攻勢は大きな成果を上げているとは言い難い状況で、再び冬を迎えている。ロシアにウクライナ全土の20%を占領されている状況が続く中、ウクライナ内部でも軍部の不満や政府内の路線の違いが目につくようになった。
バイデン政権は、ウクライナ追加支援のため総額610億ドルの追加予算を提案しているが、ウクライナ支援に消極的な共和党が過半数を握る米上院は23年12月6日に追加予算の審議を進める動議を否決し、現状では予算成立のめどは立っていない。しかし、新年早々にも米国は戦略的な気骨を再発見し、追加予算を成立させるものと予測します。
また、EUも24年から4年間で500億ユーロ(約7兆8000億円)の資金支援について、ハンガリーのオルバン首相が反対し合意できていないが、年明けには臨時首脳会議を開いて合意の方向で進むと思います。
ウクライナ軍はF-16戦闘機や新兵器を得て、春から再び反転攻勢に移ると予想します。
 
(2)イスラエル・パレスチナ紛争
 
イスラエルとハマスの戦闘によってガザ地区の大部分は廃墟と化した。支援機関やガザ当局によると、市民など2万1000人以上が死亡し、ガザ地区の人口240万人の85%にあたる200万人近くが家を追われている。多くの専門家はイスラエルによるガザ占領が続く可能性が高いという。戦闘が2024年の早い時期に終結したとしても、イスラエルはガザの軍事占領を継続する可能性が高い。ヨルダン川西岸地区を拠点とするパレスチナ自治政府を含め、イスラエルが容認するパレスチナ当局がガザの支配を引き継げる状況にはなさそうです。ハマスも容易に支配権を譲ることはないだろう。ほとんどのアラブ諸国は関与したがらない。 残るはイスラエルによる占領と包囲の継続、そして真の復興は訪れないということだろう。
イスラエルのネタニヤフ首相は、戦後のガザに関する計画をまだ明確にしていない。多くの政治家や専門家は、イスラエルのビジョンは「ヨルダン川西岸の占領モデル」を踏襲することだと指摘する。つまり、イスラエルが治安管理を維持する一方で、いくつかの指定された当局が市民生活を運営するという方法だ。 ネタニヤフ首相は、イスラエルがガザ全域を対象に無期限で何らかの形で治安の管理をすると述べたが、これはガザを再占領することにはならないと主張している。一方、ハマスのガザ地区最高指導者シンワル幹部は、残る人質と引き換えに数千人のパレスチナ人捕虜を解放させ、イスラエルとエジプトによるガザ封鎖を終わらせ、パレスチナ国家樹立への歩みを再び進展させることを望んでいる。しかし、いずれも2024年には達成できそうにないだろう。
レバノン、シリア、イエメン、イランなど周辺地域への紛争拡大を抑止できるかどうかも焦点となる。レバノンとの国境付近では、イスラエルとヒズボラの小競り合いが発生し、イエメンのフーシ―派が紅海を航行する船舶に攻撃を加えており、今後さらに活発化する恐れがある。また、イランがイスラエルに対し直接軍事行動に出れば、事態は危機的な状況になると思われる。
 
(3)テロ・誘拐の動向
 
① イスラム過激派の活動が活発化している。
 ・イスラエル・パレスチナ紛争に乗じて、シーア派系イスラム過激派がイスラエルや米国を対象にテ
  ロ活動を活発化させている。
 ・一時は弱体化したISが、2020年春頃よりシリア、イラクでゲリラ的戦闘を行っており、2024年も
  攻勢が続く見込み。アフリカ各地でISの名称を使ってテロ活動する過激派組織も増えている。
 ・アルカイダ系過激派のAQAP(アラビア半島のアルカイダ)やAQIM(マグレブ諸国のアルカイ
  ダ)、及びアフガニスタンのアルカイダなどが散発的にテロ活動を行っている。
 ・その他の主な過激派組織として、パキスタン・ターリバン運動(TTP)、ボコ・ハラム(ナイジェリ
  ア)、アルシャバブ(ソマリア)、ジェマ・イスラミア(東南アジア)等。
 ・欧米諸国を中心に、過激思想に染まってテロを行うホームグロウン型(自国育ち)やローンウルフ
  型(一匹狼)のテロも散発。
② 欧州、北米、オセアニアでは極右テロが目立ち、増大が予想される。
③ 反政府組織の活動
 ・トルコでPKK(クルド労働者党)のテロが散発
 ・ミャンマーで少数民族武装勢力や民主派武装組織の活動が活発化
 
(4)世界情勢の主なリスク要因
 
① 2024年は世界的に選挙イヤー
 ・1月7日、バングラデシュ総選挙
 ・1月13日、台湾総統選
 ・2月14日、インドネシア大統領選挙
 ・3月17日、ロシア大統領選挙
 ・4月10日、韓国総選挙
 ・4月から5月、インド総選挙
 ・6月2日、メキシコ大統領選挙
 ・6月6日~9日、EU「ヨーロッパ議会」選挙
 ・11月5日、米国大統領選挙
② 米中対立
 ・中国による南シナ海、東シナ海における一方的な現状変更の試みと経済的圧力
 ・ウイグル、香港、チベット等の人権問題
③ 台湾有事の危機
④ 北朝鮮の核・ミサイル開発
⑤ イラン核開発、ハマスやシーア派武装組織などへの軍事支援
⑥ ミャンマー、アフガニスタン、イエメン、リビア、エチオピア等の問題国
⑦ サイバー攻撃による国際緊張
 
 
【Ⅲ】NPO法人海外安全・危機管理の会(OSCMA)
 
① 当会は、2019年4月より、菅原 出(国際政治アナリスト)が代表理事に就任し、「人を育て社会に貢献する危機管理の総合シンクタンク」として、下記の4つの事業に取り組んでいる。
2023年1月~12月の主な活動は以下の通り。
  1) 外交・安全保障プロジェクト
    ・外交・安全保障月例セミナーの開催
    ・外交・安全保障サマーセミナーの開催(9月)
  2) 海外安全・危機管理プロジェクト
    ・OSCMA危機管理情報のデイリー配信
    ・海外における安全対策、危機管理対策についてさまざまな講演
    ・企業・団体の危機管理者向けにオンライン個別相談会の開催
  3) 国際政治・外交安保を学べるオンラインアカデミー
    ・2022年10月開校、各分野の専門家が講座を担当
  4) 災害危機管理サバイバル教育プロジェクト
    ・72時間サバイバルコーチ養成講座(72時間サバイバル教育協会との共催で毎年11月に実
     施)

② 2024年も4つのプロジェクトの充実した活動に取り組みます。引き続き、当会のNPO活動へのご理解、ご指導、ご支援の程宜しくお願いいたします。

(備考)2023年日本人・日本企業に関連した主な事件・事故・災害等
・1月3日 中国で70代日本人男性がコロナ感染 入院後に死亡
・1月15日 ネパールで国内線旅客機が墜落、72人全員死亡(日本人の搭乗はない)
・1月16日 ミャンマー・ヤンゴンで日本人が強盗に刺されて負傷
・1月18日 中国・上海の繁華街で日本人男性を狙った「ぼったくり」被害多発
・2月6日 トルコ・シリア地震、M7.5。 両国で死者5.6万人以上
・2月7日 フィリピン当局は特殊詐欺グループの日本人2人を日本に強制送還
・3月21日 ケニアで反政府デモ 警察が実弾発射、1人死亡
・3月26日 中国・北京でアステラス製薬の社員が拘束される
・4月25日 戦闘が続くスーダンから日本人ら45人が、自衛隊の輸送機でジブチへ退避
・6月27日 フランスのパリ郊外で若者が警察官に銃殺されたことがきっかけで暴動
・7月1日 中国が「改正反スパイ法」を施行
・7月26日 ニジェールで軍事クーデター発生
・8月8日 ハワイ・マウイ島で山火事発生、甚大な被害を及ぼす
・8月14日 カンボジア拠点の特殊詐欺グループの日本人7人が現地で拘束
・8月24日 中国が日本産水産物の輸入全面停止
・8月30日 ガボンで軍事クーデター発生
・9月8日 モロッコでM6.8地震、死者3000人
・9月10日 リビアで大洪水 死者4000人以上
・9月24日 バングラデシュでデング熱大流行 死者900人超 過去最悪
・10月7日 アフガニスタンでM6.3の地震 死者1000人以上
・10月7日 イスラム原理組織「ハマス」がイスラエルを攻撃、日本人駐在員は国外退避
・10月14日 韓国の救援機で日本人51人もイスラエルから退避
・10月14日 日本政府の救援チャーター機で日本人8人もイスラエルから退避
・10月22日 中国当局が今年3月に日本商社中国人社員を拘束したことが分かる
・10月25日 イスラエル軍がガザ地区北部に侵攻
・11月1日 外国人300人以上(日本人10人と家族8人を含む)と一部の重傷者がガザのラファ検問所
      から初めてエジプトに脱出 
・11月2日 自衛隊機で日本人20人を含む46人がイスラエルから退避
・11月9日 インド 首都で大気汚染 最も深刻なレベルに
・11月19日 イエメンの武装組織フーシ―派が紅海で日本郵船の自動車運搬船を拿捕

以 上


注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。

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