パキスタン:カラチ国際空港テロ事件とその後の展開
2014年06月17日
カラチのジンナー国際空港を6月8日(日)、午後11時30分頃、武装集団が襲撃した。治安当局との間で5時間以上の銃撃戦が行われ、武装集団の10人全員が殺害され、一方、空港保安要員、空港職員、特殊部隊員等の犠牲者は少なくとも20人に上った。現場は一般旅客ターミナルから約3キロ離れた貨物エリアでVIP用特別施設もある。警察関係者によれば、武装集団は(警備の脆弱な場所から)偽の警備隊員の身分証を使って貨物エリアに侵入し、そこから空港主要施設へ移動する計画だった模様。現場から離れた一般旅客ターミナルの乗客に被害はなく、居合わせた日本人ビジネスマン(1名)も無事だった。空港は一時閉鎖されたが、17時間後に再開された。イスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が9日、犯行声明を出し、「同志への拷問とワジリスタンでの攻撃に対する報復だ」と述べた。また、ウズベキスタンの過激派「ウズベキスタン・イスラム運動(IMU)」も事件への関与を主張している。
6月10日にもTTPの武装グループ数人が空港近くの空港治安部隊訓練所に攻撃を仕掛け、銃撃戦のあと逃走したが、TTPの活動がカラチにも広がっており、かつ再度攻撃する余力も持っていることを示した。
TTPは、アフガニスタンのタリバンを支持するパキスタン国内の13の武装勢力が合体して、2007年12月に、ベトュラ・メスード(初代最高指導者)によって結成された。勢力は約35,000人(予測)。パキスタン北西部の連邦直轄部族地域(アフガニスタンとの国境地帯)やカイバル・パクトゥンクワ州等を拠点に、近年はパキスタン全域でテロ活動を活発化させている。 2012年10月、TTPから脅迫を受けながらも女性への教育の必要性を訴えていたマララ・ユスフザイさん(16才)を銃撃したことでも知られる。
2013年6月に成立したナワズ・シャリフ政権は、イスラム武装勢力との対話を繰り返し訴え、2014年3月にはTTPも1ヵ月間の停戦に応じると表明し、政府との協議が行われたが、その間もTTPのテロと軍の空爆が継続し、和平への大きな進展は見られず、交渉は頓挫したままとなっている。
カラチ国際空港テロ事件を受けて、パキスタン軍は、6月15日、TTPの拠点がある北ワジリスタン地区への大規模な掃討作戦を開始したと発表。これに反発してTTPは、6月16日、「全ての外国企業は即刻操業を中止し、国外に撤退するよう警告する。従わない場合は安全を保証しない」との声明を出した。日本外務省は6月16日付で「北ワジリスタン地域における対テロ軍事作戦に伴う注意喚起」と題する渡航情報を発出した。それによれば、「イスラマバード及びカラチなど渡航の是非を検討が発出されている地域への渡航については,真に必要な渡航・滞在を除き,控えてください。仮に渡航・滞在される場合も,民間警備会社による警備等十分な安全対策を講じるとともに,最新の情報の入手に努め,テロ・襲撃等不測の事態に巻き込まれることのないよう,多くの人が出入りする施設,政府機関,軍・警察等治安当局施設,在外公館,欧米関連施設,宗教関連施設にはできる限り近付かないなど,自らの安全確保と危険回避に努めてください」として、強く注意を呼び掛けている。
http://www2.anzen.mofa.go.jp/info/pcspotinfo.asp?infocode=2014C219
日本企業が特にテロのターゲットになる可能性は低いが、巻き添えテロの被害に遭うケースもあり得る。パキスタン進出の日本企業・団体では、当面の措置として、パキスタンへの出張制限、会社・宿泊施設の警備強化、(やむを得ず)外出する場合は信頼できる現地の人と一緒に行動、緊急事態発生時への対応の備え、最新治安情報の入手・分析などを行い、厳戒態勢を敷いているところが少なくないとされる。イスラム世界では、6月28日(土)頃よりラマダン(断食月)に入り、宗教心が高まる時期でもあり、引き続き、十分な注意が必要である。なお、現地治安情報については、在イスラマバード日本大使館や在カラチ日本総領事館のホームページにも掲載されているので、適宜参照されることをお勧めします。
http://www.pk.emb-japan.go.jp/indexjp.htm (イスラマバード)
http://www.kr.pk.emb-japan.go.jp/j/ (カラチ)
(長谷川 善郎)
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。