グローバル:ラマダンとテロ
2015年07月03日
今年は6月18日(木)から中東やアジアの大半のイスラム教国でラマダン(断食月)が始まった。約1か月間続く。ラマダン月の開始と終了は、資格のある宗教関係者らによる新月の確認によって決められる。
この月の日の出から日没まで、イスラム教徒で「断食」を行う人は、食べること、飲むこと、喫煙、性交が禁止される。
イスラム教の聖典「コーラン」には、「コーランが下されたのは、ラマダンの月であり、この月に、断食しなければならない。病気の者または旅行中の者は、別の数日間に行うべきである(要旨)」と述べられている。
断食は、イスラム教徒に義務として課せられた5つの行為の一つであり、他は、「信仰告白」、「礼拝」、「喜捨」、「巡礼」である。
日没ともなれば、神の恵みに感謝しつつ、食事をとり始め、時に親類縁者、知人らを招いたり招かれたりで、にぎやかな夜食となる。テレビも人気の映画やドラマ、スポーツ番組等が放映されて、夜更かしの日々が続く。
この時期、イスラム教徒は預言者ムハンマドの教えに思いを馳せ、信仰心を深め、争いごとを避けて、平和な暮らしを願う。
過去にはイスラム教徒同士が戦争している場合、ラマダンの月だけは休戦にするように努めていた。欧米諸国がイスラム諸国を攻撃する場合でも、湾岸戦争(1991年)やイラク戦争(2003年)においては、開始時期を考慮することがあった。
しかし、近年はお構いなく、ラマダン中でも、イラクやシリア等では、戦闘が絶えない。昨年来台頭してきたイスラム過激派武装組織「イスラム国(IS)」は、ラマダン中のジハード(聖戦)を呼びかけ、過激派によると見られるテロが多発している(以下は最近の主なテロ事例)。
1)6月28日に3件のテロが発生した。この日はイスラム教徒が集団礼拝する金曜日に当たり、信仰心の高揚に刺激された過激派による犯行の可能性が高い。昨年の6月29日(日)はラマダンの初日であったが、この日、「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)の指導者バグダディは、ISILを改称したISの国家樹立を宣言し、「ラマダンになすべき善行は圧制者に対するジハードだ」と演説して、ラマダン中のジハードを呼びかけた(尚、バグダディは、今年のラマダンでは姿を見せておらず、容態が良くないかも知れない)。
以下の3件のテロは、いずれも単独犯によるものであるが、ジハードの呼びかけに共鳴して、呼応したものとも考えられる。
➀チュニジア中部の観光地スースで、旅行者を装った男1人がホテルに侵入して自動小銃を乱射。外国人観光客38人が死亡し、39人がけがをした。犠牲者は全員が外国人で、英国人30人、アイルランド人3人、ドイツ人2人、ベルギー人1人、ポルトガル人及びロシア人各1人。実行犯は23才のチュニジア人学生でその場で射殺されたが、現地報道によれば、今年3月、首都チュニスのバルドー博物館で発生したテロの実行犯2人と同時期にリビアで軍事訓練を受けていたとのこと。
②クウェートのシーア派モスク(礼拝所)で自爆テロがあり、25人が死亡、200人以上が負傷した。モスクでは集団礼拝が行われており約2千人が集まっていた。
クウェート内務省は実行犯が23才のサウジアラビア人(スンニ派)と特定。クウェートは治安が安定しており近年テロは起きていなかったので、驚きで受け止められた。
上記のチュニジアとクウェートの事件について、ISが犯行声明を出した。
③フランス・リヨン郊外にある米企業のガス工場でテロが発生。逮捕された実行犯は35才のマグレブ系フランス人で、運送会社幹部(元の雇用主)を殺害後、ガスタンクを爆破しようと車で突っ込むが消防隊員に阻止された。
フランス治安当局は、実行犯が犯行後イスラム国の戦闘員に連絡を取ろうとしたこと、また犯行手口がイスラム国のやり方に沿ったものであることからテロ行為と断定した。
2)エジプト・カイロで、6月29日、検事総長が爆弾テロで死亡し、ISによる犯行が疑われている。また、シナイ半島で7月1日、武装集団が軍検問所数カ所をほぼ同時に攻撃し、兵士と住民計70人が死亡。後者については、IS傘下の「シナイ州」が犯行声明を出した。
3)イエメンの首都サヌアでも6月29日、シーア派武装組織「フーシ派」幹部を狙った爆弾テロがあり、28人が死亡。ISが犯行声明を出した。
4)イスラエル南部に7月3日、エジプト・シナイ半島からロケット弾が撃ち込まれたが、被害はなかった。「シナイ州」が犯行声明を出した。
5)ソマリアの首都モガディシオの北西約100Kmにあるアフリカ連合(AU)の国連平和維持活動(PKO)部隊の基地を、6月26日、武装した男らが襲撃し、少なくとも30人が死亡。イスラム過激派アルシャバーブが犯行声明を出した。
米国務省が6月19日、2014年のテロ年次報告書を公表した。それによれば、IS等の過激派の台頭で、世界のテロ発生件数は前年比35%増の1万3463件、死者数は81%増の3万2772人に急増した。95カ国でテロが起きており、死者数は、シリア、イラク、パキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの5カ国で78%を占める。
ラマダンはあと2週間ほど続き、今後も高いテロ発生の可能性が持続する。
テロ対策には、最新のテロ関連情報の入手に努めると共に、テロの標的になり易い、軍・警察や政府関連の建物・施設、マーケットやイベント会場等人が多く集まる場所、欧米人が多く集まる場所、宗教施設等にはできる限り近づかないことが有効である。
テロ関連情報については、外務省海外安全ホームページの各国渡航情報や在外公館ホームページの安全関連情報も参照されたい。
尚、ラマダン中、テロ対策以外の注意として、イスラム教国に滞在する場合、非イスラム教徒は、日中人前で飲食や喫煙をしない、イスラム教徒の職場環境に配慮する等が必要である。
サウジアラビアでは、ラマダン中に、非イスラム教徒の外国人が公共の場で飲食や喫煙をした場合、国外追放にすると発表しているのでご注意を。 (長谷川 善郎)
注:本ニュースは、海外に渡航・滞在される方が、ご自身の判断で安全を確保するための参考情報です。ニュースを許可なく転載することはご遠慮下さい。