1.経緯
グローバル化の進展により、海外で活動する個人や企業・団体が、テロや誘拐、脅迫、あるいは強盗や暴行などの事件、また交通事故や航空機事故、震災や風水害、クーデターや暴動などの緊急事態、新型インフルエンザや公害、経営上のトラブルなどの様々なリスクに遭遇するケースが増大している。
近年、日本人及び日本企業・団体が大きな被害・影響を受けたものだけでも、9.11米国同時テロ(2001年)、米・英軍によるアフガニスタン及びイラク攻撃(それぞれ2001年と2003年)、SARSの流行(2003年)、スマトラ島沖地震・津波(2004年)、ロンドン同時テロ(2005年)、インド・ムンバイ同時テロ(2008年)、新型インフルエンザの流行(2009年)、アラブの春の発生(2011年)、タイ大洪水(2011年)、中国における反日デモ(2012年)、アルジェリアテロ(2013年)などが上げられる。
リスクが発生した場合には、安否の確認や緊急対策本部の設置、緊急事態対処マニュアルなどを利用した迅速且つ適切な対応が必要である。また、多様化したリスクの発生に備えて、企業・団体は、常日頃から有効な対策を講じることが不可欠である。そのために、安全対策・危機管理対策の推進体制を整備して、情報収集・分析や関係者とのコミュニケーション、対策マニュアルの整備、安全研修・演習などに取り組み、事件、事故、災害、緊急事態、感染症、経営上のトラブルなどに対しては、安全対策・危機管理対策を着実に実行し、被害の防止、軽減を図ることがますます重要なものになっている。
他方、海外に滞在する邦人の保護については、外務省を中心に政府によって対処されており、アルジェリアテロ事件においても、事件初動から事件収束後まで、政府のオペレーションは、概ね迅速かつ的確に行われ、事件後は、新たな邦人保護のための諸施策が政府から発表され、その中には、国内・海外における官民間の定期情報交流や官民協力による海外安全セミナー・演習の実施なども含まれており、企業・団体が直接関係するところでもある。
企業・団体が海外における安全対策・危機管理対策に取り組むにあたり、外務本省や在外公館からの情報や参考資料は有効な手助けとなるが、専門人材の不足や多忙などにより、それらを十分に活用できていないところが少なくない。特に、中小企業ではこの傾向が顕著である。
また、これらの問題を抱える企業・団体に対して、日常相談に応じるなどして支援する専門の企業・団体は少なく、中小企業にまで幅広く展開するところは限られる。
当会は、企業・団体において安全対策・危機管理対策の業務に経験のある実務者や関係分野の有識者、専門家、研究者などからなる組織である。上記に鑑み、小規模企業から大規模企業までを対象に、日頃から関係者と連絡を保ちできるだけの相談にあずかり、また安全対策・危機管理対策の情報発信や講演会・セミナーの開催、模擬訓練の実施、安全管理状況の点検・評価、国内外の関連企業・団体とのネットワーク構築、危機管理システムへの取組み、政府・自治体等関係諸機関の安全施策への協力などの事業を行うことにより、企業・団体と社会の安全・安心・発展に寄与することを活動目的とする。そして、これらの活動を効果的かつ効率的に推進するためには、法人格を有することが最良であると判断するものである。
2.申請に至るまでの経緯
アルジェリアにおけるテロ事件後、政府の在アルジェリア邦人に対するテロ事件の対応に関する検証委員会による「在アルジェリア邦人に対するテロ事件の対応に関する検証委員会検証報告書」、並びに、在留邦人及び在外日本企業の保護の在り方等に関する有識者懇談会による「在留邦人及び在外日本企業の保護の在り方等に関する有識者懇談会報告書」がそれぞれ平成25年2月28日と同年4月26日に公表された。
両報告書によれば、平素からの情報収集・分析のあり方、官民双方向の連携と危険情報・問題意識・ノウハウの共有、関係省庁による企業の安全対策・危機管理対策の普及啓発、国民の意識改革・啓発活動の推進、企業・団体の自助努力の責務などの指摘や提言が具体的に述べられている。
私たちは、これらの事項について支援する立場から、できるだけの取り組みをして行きたいとの強い意志を有する。後者の報告書の文中には“この種の悲劇は繰り返される可能性がある。残念ながら、これまで日本人は官民とも、事件・事故が起きた時こそ海外での邦人の安全に強い関心を持つが、その後は「喉元過ぎれば熱さを忘れる」傾向があった。今度こそは、アルジェリアでの教訓を風化させてはならない。”との記載がある。私たちは、このことを重く受け止め、長期的かつ持続的な安全対策・危機管理対策に取り組むため、設立総会を開催して、NPO法人の設立を申請するに至った。設立後は、当会メンバーのみならず、より多くの個人や企業・団体の参加、協力を得て、組織の活動を拡大して、有益な社会貢献を行うことを業務の一つに位置付けて、法人の運営に当たる決意である。